<米国発:第4回>「グローバル人材」になるため難しく考えないこと | 東京IT新聞

<米国発:第4回>「グローバル人材」になるため難しく考えないこと

エンタープライズ 企業動向

米国の大手コンサルティングファームに勤務し、在米経験が15年になる筆者・廣瀬祐二氏がこれまでのビジネスや日常生活を通じて感じたグローバル人材としての生き方と難しさをはじめ、現地でのIT活用のあり方を紹介する連載。第4回は筆者の経験をもとに、地に足の付いたグローバル人材像と、そのためにどんなスキルが必要かを考えていきます。

“敷居の高い”グローバル人材像が恐怖心をあおる

 「グローバル人材」というキーワードでネット検索すると、実に多くの記事やコラムがヒットします。その多くはとても高尚で価値のある話が詰まっているように思います。

 たとえば以下のような提言が書かれています。

  • 確固としたビジョンと夢を持つこと
  • 人をまとめあげるコミュニケーション能力と主体性を兼ね備えた人間になること
  • 誰にも負けない技能を持つこと

 確かにうなずける内容も多いですし、啓発されるような話も載っていたりします。

 しかし、「これからの時代、誰しも国際化は避けて通れない時代である」などと言いながら、「国際人とは優れたコミュニケーション能力があり、人間力が高く、スペシャルスキルを持っている」などと、まるで凄まじいまでの起業家精神や博士クラスの学歴、技術が無ければグローバル人材にはなれないかのような内容が多すぎるように思えます。

 そんな記事やコラムを読むと、凡人の私などは「自分はグローバル人材には程遠い・・・」と自信喪失な気持ちになったりします。

 そんな“敷居の高い”記事こそが日本人のさらなる“外国恐怖症”を煽り立て、逆に「グローバル化」へのハードルを上げてしまっているように思えてならないのです。

海外で働くためにあると便利な4つの能力

 私は本当に役立ち、かつ思いやりのある「グローバル人材論」とは、多くの日本人が暗に明に感じている外国コンプレックスや恐怖心を取り除き、日本と世界の距離感を縮める必要があると思っています。

 国際色あふれる環境で生きて来た経験をもとに、私が考えるもっと地に足の付いたグローバル人材やスキルとは一体どういうものかを考えてみます。

 私なりに考えるグローバル社会で生きて行く上で便利な資質として、

  1. リンベンティング(新たにやり直す)能力
  2. リスクヘッジ能力
  3. 専門分野に特化した英語力
  4. 数字や論理に強い理科系の頭脳

 以上の4点があるように思われます。

スピードが極めて早いからこそのリインベンティング能力

 米国では各企業が進める作業のIT化による人員削減や、低賃金英語圏へ向けて急速に展開される業務アウトソーシングにより、スキルや経験が陳腐化するスピードが極めて早いのが現状です。

 そのため、自分の会社や職種があっという間に衰退するような現象があらゆる産業で起きています。だからこそ年齢に関係なく「リンベンティング(Reinventing)」、つまり新たにやり直す能力が必要になると考えています。

 私の住むロサンゼルスは映画スタジオが多く、映画産業が多くの雇用を生み出していました。私の友人も銀行員を辞めて「自分の好きな事で食べて行く」と言って、専門学校まで通って晴れてCG(コンピューターグラフィック)アーティストになりました。

 初めの頃は順調に仕事が入って来ていましたが、リーマンショック以降はCGの仕事の多くが急速にインドへアウトソーシングされることになり、ロサンゼルス現地の仕事は激減。ここ5年もしないうちに時間給はおおよそ3分の1程度に落ち込んだそうです。

 しかも1年のうち半年間は“職無し”という状態となっています。そんな彼ですが、今ではオンラインMBAで学び、新たな領域で再挑戦する気構えです。他の知人にも50歳を過ぎて仕事を辞め、エグゼクティブMBAに通いキャリアをやり直した人物もいます。

雇用の不安定を補うためのチャンスは開かれている

 近年ではコーセラのように、米国の一流大学が提供するカリキュラムを無料や低料金で受講できるオンラインプログラムも充実しており、雇用の不安定を補うべくやる気さえあればキャリアを変えるチャンスは年齢に限らず与えられています。

 日本もかつての花形産業があっという間に衰退する様子が日々ニュースで伝えられています。グローバル化の波に飲まれた瞬間に安定などと言うものは存在しなくなります。

 安定思考で日本では公務員が人気職種になっているそうですが、日本経済の破綻が絵空事ではなくなっている現在、公務員が安定職業などと決して思えません。

 年齢などを気にせずに色々なツールを活用し、自分のキャリアを時代に合わせて再構築出来るポジティブな精神が凄まじいスピードで進化し続けるグローバル社会では重要になると考えます。

 当然ながら採用にて年齢差別を無くすような法的整備が政府主導で取り組まれて行くことが大前提となるでしょう。

会社にとらわれずチャンスをうかがうリスクヘッジ能力

 産業の浮き沈みのスピードがとても激しい社会のため、米国では多くの人間が雇用や将来に不安を抱えているのが現状です。

 抗うつ剤の処方量が過去20年で4倍に増えているとのデータがあります。経済的不安がうつの主要因になるのはどこも同じであるようです。

 そのため、米国では雇用の不安定さを、お金稼ぎの方法を多様化することによってリスクヘッジする傾向が見られます。日本人に比して投資が一般的であるのもその一例ですし、米国人は普通の企業勤め人であっても本職以外にお金稼ぎの手段を持っているケースが多く見受けられます。

 大手企業に勤務しながら週末をスマートフォンのアプリ作成にあてて、最近実際にアップルとの契約に漕ぎ着けた友人もいます。

 コンサルタント仲間の一人は昨年、地元の小さな物流会社を買い上げ、そこからコンサルの給料以上の利益を稼ぎ出しています。

 それでもコンサルタントを続ける理由として「自営業は不安定でリスクが高い。だから安定したキャシュフローを生み出す他の軸が必要だ」とのことです。

 こちらで起業や独立に際してよく言われるのが「Be brave, but don't be reckless(勇敢に、しかし無謀では無く)」ということ。

 同じ職種や職場でいながらも、このように会社の枠組みにとらわれず、さまざまなチャンスを伺っている人と、会社の枠組みの中だけでお金を稼いでいる人との間に大きな経済格差が生まれています。

専門分野に特化した英語力を身につける手軽な方法

 やはり21世紀の世界共通語として英語は避けて通れないでしょう。

 日本式の「喋れる事を目的としていない英語教育」で育った私としては、当然英語に苦労しました。恥ずかしながら在米15年の現在でも私の口からはネイティブのような流暢な英語は出てきません。やはり30歳手前で渡米して多少頑張って勉強しても、流暢な英語を喋るには遅すぎたようです。

 しかし、ビジネスに使える英語力はやり方次第で意外と早く成果が出ることも実感して来ました。

 仕事で使うからと一念発起して英会話学校に入った人で、上手く英語を喋る様になったケースは少ないように思います。それよりも忙しい企業勤めの人の場合は、自分の就業分野に特化した英語力の強化に向け努力するのが得策だと思います。

 自分が携わる業界や職種関連の英書を10冊程、オーディオ版で聞きまくるのです。コミュニケーション能力の基本はリスニング力ですから、これを向上させない事にはどうしようもありません。興味のある分野ですから頭に入りやすいですし飽きづらいのではないでしょうか。

 たまに外国人力士が来日数年にも関わらず、流暢に日本語でインタビューに受け答えをする様子に驚くことがあると思います。

 しかしその力士が相撲とは関係ない、たとえばクイズ番組に出たりすると、司会者の質問を理解できずトンチンカンな受け答えをしたりする光景も見られます。

 彼らは「相撲」という狭い範囲での日本語にはずっと触れているので、その限定分野に関してはあっと言う間に上達するのです。

 ごく一部の語学好きな人間を除けば、語学の勉強はとても退屈な作業です。理由の一つが目に見える成果が出るのにとても時間が掛かる事です。しかし狭い分野に特化すれば、その背景も理解できており、端々から聞き覚えのある単語も耳に入り、そこから話の背景を推測することができたりして、成果は意外と早く出るものです。

数字や論理に強い理科系の頭があったほうがいい

 米国で、日本人でありながら日系企業や日系社会の枠組みにとらわれず活躍の範囲を広げている人の多くは、エンジニア系の職に就いている人々です。英語力を含め、コミュニケーション能力にて劣りがちな日本人が外国で活躍の場を求めるには、エンジニア職が圧倒的に有利です。

 私自身が特にビジョンもなく、単なる数学嫌いの理由で文系学部に進学したのを反省し、自分の子供にはなるべく理科系の分野に興味を持たせるようにしています。

 そもそも日本では、文系学部では数学を必須としない大学が多いのですが、今ではたとえ文系学部であったとして数学は必須科目とするべきだと言う考えです。論理は世界の共通語なのですから。

「俺でもやれそう」まずは世界を近くに感じること

 海外で人生を切り拓いてみたい――私がそんな夢を抱いた契機は大学時代に米国に住む親友の家族を訪れたことでした。

 彼の父親はロサンゼルスで事業を営むビジネスマン。東京大学を卒業し大手証券企業に勤務、幹部候補生としてニューヨーク大学MBAへ派遣され、幹部候補として出世街道を歩んでいました。

 激務で家族も省みない日々を送るうちに50歳手前にして「このまま会社だけに捧げた人生で俺の人生は終わるのか」「死ぬ際に後悔のない満足感で死ねるだろうか」と問い直し悩んだあげく、意を決し、かねての夢であったアメリカで事業を始める事を決意したそうです。

 それだけ聞くと仕事の鬼のようなエリート然とした人間を想像してしまいますが、実際の彼はいつも笑顔でリラックしていて一緒にいてとても楽しい人物。“切れ者国際ビジネスマン”をイメージしていた私にはギャップでした。

 彼の英語力もお世辞にも流暢とは言えないレベル。それでも米国でしっかり事業を切り盛りしている様子を見て「これなら俺でもやれそうだ」と感じ、自身のなかにあった日本と海外の距離が急速に縮んで行くのを感じました。

 当然海外で事業を回していくのはとても大変なことであり、当然人知れず死にもの狂いでやってきたのでしょうが、彼のリラックスした雰囲気こそが私に海外でやっていく自信を与えてくれたのです。

日本レベルで普通に仕事をしていれば認められる

 私自身ハーバードのMBA卒だったりMIT(マサチューセッツ工科大学)で博士課程を取ったようなハイプロフィールな秀才でもなんでもない、まったくの凡人です。

 そんな自分ですが、平均的な米国人より遥かに自分なりの舵取りが取れた人生を歩んでいる自信があります。ラッキーなことに、日本人の真面目さとガッツをもって日本レベルで普通に仕事をしていれば、世界的には「勤勉で優秀な人間」の称号をもらえますので、世界にて異国の人間と渡り合える可能性は高いと言えます。

 ですから日本の方には駐在にて海外生活といった一つの形にこだわることなく、色々な形で海外に飛び出て行ってほしいと思っています。

 もちろん、何の準備も用意もなく、いきなり海外へ出ることを無責任に勧めることはしません。国や文化に依存することのない普遍性の高いスキルを磨く事も大事です。

 でも一番大事なのは、視野を広げ、日本人として日本でのみ生きると言った既成概念を打ち破り、自分の生まれ育った国以外で生きる事も選択肢に入れるような柔軟な人生観と、好奇心に満ちた価値観を持つ事ではないかと思います。

 そんな考えを持つ事が人生の軸足を多くし、生き方の可能性を広げ、オリジナリティー溢れる人生を切り開く第一歩と信じています。

《廣瀬 祐二》

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