<IPO専門家が教える>日本企業で初めて英国「AIM」に上場した理由 | 東京IT新聞

<IPO専門家が教える>日本企業で初めて英国「AIM」に上場した理由

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<IPO専門家が教える>日本企業で初めて英国「AIM」に上場した理由
  • <IPO専門家が教える>日本企業で初めて英国「AIM」に上場した理由

企業でのシステム開発者を振り出しに、営業トップや経営者として上場を果たすなど、IT界で多彩な職歴を持つ株式公開コンサルタントの高橋諭氏。ITベンチャー経営者の視点からIPO(株式公開)の苦労とコツを伝授していきます。第8回は、日本企業でありながら英国ロンドン証券取引所の新興市場である「AIM(エイム)」に上場した筆者の経験をお話しします。

日本企業初のAIM上場を目指し、欧州企業の買収に飛ぶ

  10年ほど前、私はある持株会社に加わり、基礎技術そのものには高い評価がありながら業績不振が続いていた傘下の指紋認証技術開発企業の事業再構築を手がけることになりました。

  ちょうどその頃持ち上がったスウェーデンの指紋認証デバイス企業(スウェーデン新興市場上場)の買収話もあり、これと絡めてなにか良い策はないものかと考えていたところ、英国ロンドン証券取引所の新興市場である「AIM」が急成長しており、オイルマネーの流入もあって資金流動性も非常に高いという話を聞いたのです。

  そこで、スウェーデン企業を買収した後、ビジネスモデルを強化してAIMに重複上場させ、そこで得た資金を元に日本の指紋認証企業を子会社化して事業再構築を行うという戦略はどうかと考え、オーナーの賛意を得て、私は買収交渉のためのスウェーデン訪問の後、ロンドンに向かいました。

新設企業も最短6カ月で上場可能な制度に驚き

  大英博物館近くに本拠を構え、AIM上場支援業務を積極的に推進している会計事務所で聞いたAIMの制度は、それまで日本の新興市場しか知らなかった私には驚くべきものでした。

 いわく、最短6カ月で上場可能であり、新設企業でも対象になる、など・・・。

  帰国後、スウェーデン企業の重複上場のスキームは撤回し、新会社を設立して指紋認証企業から研究開発事業を譲受し、この新会社を最短でAIMに上場させることとし、約一ヶ月後に会社が設立されて私が代表取締役社長に指名されました。

  第6回の記事でも書いたように、さらに一カ月後、AIM上場企業のポジションを得て、企業買収による成長を目論むビジネスプランとともにロンドンを訪問。ノミネーテッド・アドバイザー(“ノーマド”=日本の市場における主幹事証券会社に似た役割の会社)候補6社を回り、うち1社からの引受オファーを得ることができたのです。

上場基準が一切ないロンドン証券取引所AIM

  ロンドン証券取引所AIM(Alternative Investment Market)は、1995年に創設された小規模かつ成長企業向け市場です。

 財務数値や浮動株式比率などの上場基準が一切なく、取引所が許可したノーマド(多くは証券会社)が上場承認および上場維持などをすべて決定します。従って、設立したばかりの企業であってもノーマドが引き受けさえすれば上場が可能なのです。

  いくつかの特長を列挙しましょう。

(1) ノーマドが決まれば最短6カ月で上場可能

(2) 日米の新興市場に見られる“過度”とも思える内部統制への基準が緩やかで上場企業の負担が少ない

(3)上場時の公募・売出には制限があるが、上場日の直前まで増資が可能

  特に、(3)は「Pre IPO」と呼ばれており、上場日10営業日前に取引所より上場企業情報が発表されるので、増資期間の日程を並行させることによって投資サイドは発表を確認した後、投資を実行できることから、資金調達を行いやすい環境が用意されています。

  創業間もないアーリーステージのベンチャー企業が資金調達をするために、どのような市場であるべきかがよく考えられている市場になっているわけです。

 当時、米国ナスダックにおけるSOX法などの厳しい規制や負担を嫌い、米国企業など英国以外の企業の上場が相次いでいましたが、上場している日本企業はありませんでした。

日本にもAIMに類似した市場が作られたが・・・

12年7月に東京証券取引所内部の市場となり、現在はTOKYO PRO Marketと名称変更されている

  実は、ベンチャー企業が上場しやすいAIMのような市場は日本にもあるのです。

  2009年6月、東京証券取引所とロンドン証券取引所の共同出資により「TOKYO AIM」が創設されました。市場のルールはロンドンのAIMとほとんど同じ仕組みを導入した市場です。

  しかし、この市場は後に述べる理由により上場企業は1社に留まり、2012年7月、ロンドン証券取引所が撤退、「TOKYO PRO MARKET」と模様替えされました。現在11社が上場していますが、ほとんど株の売買は行われておりません。株を売りたい株主はたくさんいるのですが、買う投資家がいないという状況です。

  これは上場基準が緩やかな市場に対する“投資家保護”のため(?)参加できる投資家が金融資産3億円以上を保有する人など「特定投資家」に限定されていることが原因です。

  現在、「アベノミクス第3の矢」の重要な施策の一つとしてベンチャー企業の育成が取り上げられているなか、アーリーステージのベンチャー企業への投資促進は育成の本道とも思われます。

 もちろん投資家は“玉石混交”の市場への投資に関し、より的確な評価眼を持つ必要がありますが、基本は自己責任でしょう。AIMで成功しているビジネスモデルでもあり、私はこの制限を取り払って活性化をはかるべきだと思っています。

海外市場ならではの難題が待ち受けていた

  話を10年前に戻しましょう。

 ノーマドも決まり、法務、財務の専門家たちを英国から迎えてのデューデリジェンス(ビジネスや法務、財務に関する企業評価)も順調に進むなか、私たちの会社は約6億円の上場前増資、すなわち「Pre IPO」を行おうとしていました。

 しかし、これには海外市場上場ならではの思わぬ難題が待ち受けていました。次回はこのことを書いていきましょう。

《高橋 諭》

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