福岡市の「スタートアップカフェ」開設半年、世界的ベンチャー育成へ着々 | 東京IT新聞

福岡市の「スタートアップカフェ」開設半年、世界的ベンチャー育成へ着々

エンタープライズ 市場動向

「開業3年以内の若い企業は全事業所の1割もないのに、国内の雇用者全体の4割近い雇用を生み出している」――。創業や起業の重要性を訴える際、福岡市の高島宗一郎市長は、よくそう話す。同市が昨年(2014年)10月に開設した起業・創業の支援拠点「スタートアップカフェ」は、同市長の起業家育成にかける意欲が凝縮したようなスポットだ。今月(4月)9日にはオープン半年を記念する記念イベントが開かれ、出席した高島市長は「福岡市の創業のすそ野は広がっており、世界に誇るグローバルベンチャーが育つと信じている」と夢を膨らませた。

起業意欲が湧く雰囲気 真正面にはアップル直営店

「ツタヤ・ブックストア天神」前の歩道に置かれた「スタートアップカフェ」の案内板
 西鉄天神駅近く、中央区今泉1丁目のビジネス街に立つ地下1階・地上5階建てのビル。スタートアップカフェは、この建物のほぼ全フロアを借り切った「ツタヤ・ブックストア天神」の3階フロアの一角にある。ビル2階にはスターバックス・コーヒーも入る。  東西に走る道路(国道202号=通称国体道路)を挟んだ真正面には米アップル直営の「アップルストア福岡天神店」が立地し、起業意欲が湧きやすい雰囲気が漂う。  カフェの広さは約100平方メートル。2人の受付係員がおり、椅子付きのカウンターやテーブル、ソファなどが配置された空間が広がる。Wi-Fi環境や電源、コピー機があり、ちょっとした仕事も可能だ。プロジェクタやスクリーンといったセミナー用の器材も完備する。  年末年始を除いて、原則毎日午前10時から午後10時まで開かれ、“起業家の卵”を受け入れる。

工夫凝らし機能拡大 全国初の雇用労働相談センター

カフェオープン半年を記念して今月9日に開かれた「アニバーサリーイベント」には若手起業家ら29人が参加した。最前列右端はプレゼンテーションを待つ高島市長
 福岡市創業・大学連携課の調べでは、カフェでの相談件数は今年(2015年)3月末現在で延べ530件を突破。福岡商工会議所ビル内に市が設置した制度融資の窓口での相談件数が14年度の1年間で約300件だった。  「単純比較は出来ないが、カフェは市が予想していた以上に活況だ」と同課の的野浩一課長。確かな手応えを強調するものの、オープニングイベントや東京の著名ビジネスマンらを招いたセミナー開催などが数字を押し上げたとみられる。  ただオープン以降、市も工夫を凝らして機能も拡大してきた。  福岡市は国家戦略特区「グローバル創業・雇用創出特区」に指定されており、厚労省が昨年11月28日に全国初の「福岡市雇用労働相談センター(ECC)をカフェ内に開設した。労働法に明るい弁護士が常勤し、創業者が従業員を雇う際の雇用ルールの無料相談に応じる。“ブラック企業化”を未然に防ぐ狙いもあるという。  今年1月からは毎週木曜日を「個別相談デー」にして、行政書士や弁護士、税理士といった士業や日本政策金融公庫の職員が、それまでバラバラに対応していた個別相談をまとめて応じるようにした。  個別相談デーは、カフェでのセミナー開催などを行わない「ノー・イベントデー」にして相談者を優先している。

実際の運営は地場の投資ファンド・ドーガンが担当

スタートアップカフェの入口、奥にはイベントなども開かれるオープンスペースも
 カフェは市がカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の九州カンパニーに業務委託しているが、市創業大学連携課によると、CCCは主に場所や機材を提供し、実際の運営は地場の投資ファンドであるドーガン(福岡市、森大介社長)が手掛ける。  事実、カフェに日替わりで常勤する「コンシェルジュ」と呼ばれる相談員は4人。CCCとドーガンの社員が各2名だが、トップのエグゼクティブコンシェルジュはドーガン社員の藤見哲郎氏だ。過去にグロービスで勤務した職歴や起業経験を生かして起業を目指す若者たちと向き合う。  記念イベントのトークセッションでは、起業間もない若手経営者たちが、取り組み中のビジネスを紹介した。  たとえば、東京から福岡市に移住し昨年8月に創業したエンジニアは「釣り」に着目、釣果(ちょうか)の共有アプリを開発、近くリリースするという。  同じ福岡移住組の別の若者は、東京で起業して挫折。常勤社員50人以上の会社に義務付けられている健康診断のデータを利用したビジネスでの再チャレンジを考えている。

進取の気風に満ちた土地柄、創業や開業に適した素地

福岡市は「グローバル創業・雇用創出特区」に指定されている
 福岡市は「那の津」と呼ばれていた古代から中国大陸や朝鮮半島との交易で栄えた。  進取(進んで新しいことに取り組む)の気風に満ちた土地柄で創業や開業に適した素地がある。同市の職員は「開業率が全国20市の政令市のトップ」と胸を張る。  的野課長によると、開業率とは、かつて総務省統計局の事業所・企業統計調査に基づく事業所数に占める新規事業所数の割合としていた。ただ調査が3年ごとだったため、内閣府の国家戦略特区に指定される前後から、雇用保険適用事業所数に占める毎年度の新しい適用事業所数の割合に変更したという。

「スタートアップ都市」宣言後は開業率アップ

 2012年9月に高島市長が「スタートアップ都市づくり」を宣言した時の開業率は6.2%だった。それが14年度は7.1%に上がった。  市はさらなる開業率アップを狙って、カフェに英語を自在に話せるコンシェルジュを配置する一方、相談がサラリーマンやOLらが退社する夕方以降に増えるため、常駐コンシェルジュの勤務を夕方以降は複数にして相談が滞らないようにしている。 【写真上】福岡市による起業・創業の支援拠点「スタートアップカフェ」のWebサイト 【参考記事】福岡など8つの「スタートアップ都市」、地元ベンチャー引き連れ都内で大型シンポ(2014年12月9日)
《筑紫 次郎》

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