社会問題の現場と人を繋ぐ団体、リディラバの安部代表が目指す世界 | 東京IT新聞

社会問題の現場と人を繋ぐ団体、リディラバの安部代表が目指す世界

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社会問題の現場と人を繋ぐ団体、リディラバの安部代表が目指す世界
  • 社会問題の現場と人を繋ぐ団体、リディラバの安部代表が目指す世界

“社会の無関心を打破する”という理念を掲げ、社会問題の現場を旅する「スタディツアー」や、社会問題情報を投稿可能なWebメディア「TRAPRO(トラプロ)」の運営を行う一般社団法人リディラバ(事務局:東京都豊島区)。社会問題にまつわるさまざまな事業を展開し、誰もが気軽に社会問題に関われる仕組みづくりに取り組む安部敏樹代表に話を聞いた。

問題の現場を肌で感じられるスタディツアー

リディラバの名はRidiculous things lover(バカバカしいことが好きな人)を略した造語が由来。社会問題に触れることが優等生を気取るようで気恥ずかしい、という心理的な壁を崩したいとの思いもある

 社会問題と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。少子高齢化や貧困、はたまた海の向こうで起きている宗教問題など――。

 世の中にはさまざまな“問題”があふれているが、実際にその現場に足を運んだという人は少ない。すぐそこに存在しているにもかかわらず、身近に感じることのできないのも社会問題だ。

 リディラバでは、誰もが社会問題の現場を実際に訪れることのできる「スタディツアー」を展開する。荒れ果てた耕作放棄地の問題を畑仕事を通して体感するツアーや、スマートフォン(スマホ)やデジカメを持たずに鎌倉の街を散策するデジタルデトックスツアーなど、現代社会が抱える問題をさまざまな角度から学べる機会を提供している

 しかも、これらのツアーは外部のNPO法人や企業から個人まで、社会問題に取り組んでいる誰もが、ツアーを企画することができるのが最大の特徴だ。

社会問題の裏に民主主義の不全と世の無関心

スタディツアーの運営自体は安部代表が社長をつとめる株式会社Ridilover(リディラバ)が行う。同社のビジネスモデルはさまざまなベンチャーイベントで高い評価を受けた

 リディラバの創設者である安部代表は「僕らは旅行会社をしているわけではなく、多くの人が社会問題に関わるための仕組みを作っています。いわゆる“ソーシャルグッド(社会貢献活動の支援サービス)”を扱う集団なんです」と語る。

 “社会問題は解決できないのか”との思いを原点に、2009年にボランティア団体として始まった。

 「解決策として考えられるのは、問題に対して人々が投票して解決に導く民主主義。しかし、実際にはまったく機能していないのが現実です。僕らは、その理由を“人々の構造的な無関心”にあると考えました。社会問題と言われても漠然としているし、自分と関係のない事柄にはなかなか関心が持てないという非当事者が大半だと思います。でも、社会問題は当事者だけでは解決できないからこそ『社会問題』になっているわけです。僕たちは当事者たちでは太刀打ちできない問題に、非当事者が気軽に関わって解決策を議論してけるような仕組みをつくっています」。

 しかし、非当事者と社会問題の間には、「関心の壁」「情報の壁」「現場の壁」という3つの壁がある。「これを越えないと、僕らは気軽に社会問題に触れることもできない」。

 そして、彼らがスタディツアーによって打ち砕いたものこそが、現場の壁なのだ。

質の高いメディアである旅行を通じ意識高める

 たとえば、中山間部の耕作放棄地では、山から降りてきたイノシシが人を襲うなどの獣害に悩まされている地域が国内に多数ある。

 「でも、獣害の畑の写真を見せられても、非当事者には社会問題の実情はほとんど伝わらない。もしも僕がTwitterに1万人のフォロワーがいて、獣害についてつぶやいても、それをフォロワーに見てもらえるのは一万秒程度です。でも、社会問題の現場に2日間のツアーを組んで20人が参加すれば、その人たちの48時間を独占できるうえ、当事者意識も持ってもらえる。旅行はとても質の高いメディアなんです。嬉しいことに、ツアーの参加をきっかけに、その現場に移住する人もいます」。

 参加者たちは現場を訪れることで、それまで漠然と感じていた社会問題の輪郭が見えてくる。現場が与える衝撃は人の心を動かす。リディラバでは、これまでに60以上のツアーを開催し、多くの非当事者を現場へと送り届けている。2014年に観光庁長官賞を受賞するなど高い評価を受けつつある。

問題意識を言語化するためのメディアも立ち上げ

 そして、次に立ちはだかる情報の壁を壊すために作られたのがWebメディアの「TRAPRO(トラプロ)」だ。個人はもちろん、NPOや社会的活動をしている企業など、誰でも社会問題を発信できる媒体となっている。

 「発信する場を設けることで個人が感じている問題意識を言語化できる」。

 社会問題の現場へ行くための“道路”をスタディツアーで整備し、TRAPROで情報発信の場を作ったリディラバ。しかし、いくら道を整備しても“入口”に関心がなければ、その道を歩かない人もいる。

 「関心の壁を壊すには、強制的に現場に連れて行くしかない。そこで、現在は中高生の修学旅行や企業研修に社会問題の現場をプログラムに組み込んだ旅行づくりをサポートしています。修学旅行は、学校教育のなかで唯一外部の人間が介入できる教育機会です」。

社会問題をコンテンツとして扱う市場がない

 さらに、企業向けには社会問題の現場に学生を連れていき、事業を立案するインターンシップ制度を運営。リクルートや三井不動産など、名だたる大企業がリディラバの研修を取り入れている。

 「修学旅行や研修の企画は、ある程度の収益が見込めるマーケットでもあります。僕らのように社会問題をコンテンツとして扱っている市場はほぼなく、社会的でありながら事業性が見込めるビジネスモデル。僕らはお金儲けをしたいわけではないのですが、事業性があるからこそ、人が寄ってくるという構造はありますね」。

人生を賭けて意思決定のルールを変える

リディラバの安部代表

 研究に研究を重ね、オンリーワンの位置を築いたリディラバ。安部代表が見据える未来とは──。

 「僕らが目指しているのは社会問題のプラットホームです。問題に直接触れた人々の問題意識や倫理観が見えるようになると、その人たちは社会問題の内容をベースに、『買う』『働く』などの意思決定ができるようになります。僕らがやろうとしているのは、これまで社会的に何千年と変わらなかった意思決定のルールを変えることです。今一緒に働いてくれているスタッフは、本気で社会を変える仕事がしたいという理念に共感してくれています」。

 2009年に初めてのスタディツアーを開催して以来、安部代表の6年はリディラバ一色だ。

 「少なくとも、世界中で僕以上にこのテーマと社会のあり方について考えてる人はいないはず。資金面も含めて、個人で負えるリスクはなるべく背負ってます。人生を賭けてますから。リターンは世界が変わることでいいんじゃないですか」とこともなげに言う。

 彼らが構築する新しい"仕組み"に、世界が仰天する日も近いはずだ。

安部敏樹(あべ・としき) 一般社団法人リディラバ 1987年生まれ。2006年に東京大学に入学。在学中の09年にリディラバを設立し、13年に法人化。現在は東大で1~2年生向けの講義をしながら、同大学院博士課程にも所属。豪州でマグロ漁師に従事した経験も。ビジネスプランコンテストの受賞も多数
《大貫 未来》
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