アップルに流れる仏教的な価値観、米テクノロジ企業に大きな影響 | 東京IT新聞

アップルに流れる仏教的な価値観、米テクノロジ企業に大きな影響

エンタープライズ 経営

米アップルを見ていると、企業は製品やサービスを通じて社会にメッセージを発信しているということに気付かされる。特に製品が成功し、広く普及した場合には、そのメッセージが人々の考え方や価値観にまで影響を与えることがある。

“二番煎じ”はカッコ悪いものなのか?

 たとえば2~3年前までは、「“二番煎じ”はカッコ悪い。何でも一番先にすることに価値がある」と声高に叫ぶベンチャー企業の経営者が多かった。

 僕は「他社よりも早くというのは単なる自己満足であり、大事なことは二番煎じでもいいのでユーザが喜ぶ製品を作ることだ」と感じていたのだが、あまりにも熱心に「スピードこそすべて」と説いていたので、あえて反論しなかった。

 確かに一番速く製品を発表したベンチャー企業には注目が集まる。しかしそうした製品のなかには、結局は製品化ができなかったり、製品化できても社会を変えるほどのインパクトを持たなかったものが多い。

 1年前にウエアラブルという“バズワード(実態が薄い流行語)”が広がったとき、数多くのベンチャー企業が「世界初」の座をかけて、スタートダッシュした。しかし「スピードこそが戦略」というベンチャー企業のウェアラブルコンピュータで、社会を変えるまでに普及したものは、まだない。

iPodもiPhoneも一番最初の製品ではなかった

 一方、iPodは最初の音楽プレーヤーではなかったし、iPhoneも一番最初のスマートフォン(スマホ)ではなかった。しかし、納得いくまで製品化に時間をかけた二番煎じのアップルの製品は大ヒットを続けている。

 僕のような評論家的な人間が議論を仕掛けるよりも、主張という魂を込めた製品が、より効果的に反対意見を論破し、二番煎じの議論に終止符を打ったように思う。

 「二番煎じはダサい。スピードが戦略」と声高に叫ぶベンチャー企業は、もはや出てこないのではないかと思う。

 そういう意味で、製品やテクノロジは、新しい価値観を運ぶ媒体になりつつあるのだと思う。

「人には無限の可能性がある」という価値観

米誌ファストカンパニーのインタビュー「Tim Cook on Apple's Future」

 アップルはゲイの人権問題や、環境、プライバシーの問題でも新しい価値観を示そうとしてきた。

 最近読んだ米誌ファストカンパニー(FastCompany)の「Tim Cook on Apple's Future」という記事のなかで、アップルのティム・クック(Tim Cook)CEOは「人には無限の可能性がある」という同社の幹部が共有している価値観について語っている。

 言い古されたメッセージかもしれないし、同じようなことを簡単に口にする人も多い。でもこのことを自分の信念として、心の奥底にまで落とし込めている人は、ほとんどいないのではないだろうか。

記事で語られたティム・クックCEOの言葉

 スティーブ・ジョブズ氏は仏教に傾倒していた。彼は心の底から「人には無限の可能性がある」と信じていたようだ。記事で語られたティム・クックCEOの言葉を紹介しよう。

 「スティーブは、ほとんどの人が小さな箱の中に生きていると感じていました。多くの人は、自分が社会を変えたり社会に影響を与えることは無理だと考えています。スティーブは、そうした考え方の人の人生は限定されたものになっていると考えていたと思います。そして私がこれまでに会った人の誰よりも、スティーブは限定された考え方を否定していました」。

 「彼は、幹部連中から、限定された考え方を排除しました。こうした考え方にとらわれなければ、物事を変えることができる。自分には無限の可能性があると信じることができて初めて、世界を、世の中を変えることができる。それが彼の人生で一貫した信念でした。その信念のおかげで彼は、大きな仕事を成し得てきたのだと思います。スティーブは口で言うのではなく、態度で『現状に甘んじるな』という考え方を会社全体に染み込ませました」。

テクノロジが新しい価値観を運ぶ船になる

 アップルがこうした仏教的な価値観を、どの程度広めるのかは興味深い。少なくとも同社はシリコンバレーのテクノロジ企業からの絶対的な尊敬を勝ち取っている。オピニオンリーダーになりつつあるのだと思う。なのでその価値観は、シリコンバレー全体に広がりつつあるようだ。

 先月、シリコンバレーへ出張した際に同地在住の友人が「テクノロジ企業のなかには、仏教的な価値観を持つ人が増えてきている。グーグルでも瞑想クラスが人気だ」と語っていたのが印象的だった。

 「テクノロジx新しい価値観」。テクノロジが新しい価値観を運ぶ船になり、21世紀の社会を築いていくのかもしれない。

《湯川 鶴章》

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