地域の課題をITで解決する人材を育成、公立はこだて未来大学の挑戦 | 東京IT新聞

地域の課題をITで解決する人材を育成、公立はこだて未来大学の挑戦

エンタープライズ 行政

地域経済のIT化を支える大学が北海道の函館市にある。15年前の2000年に開学した公立はこだて未来大学は「システム情報科学」に特化した新しい単科大学。街全体をキャンパスに見立て、地元の課題をITを使って解決を目指すというユニークなカリキュラムを盛り込む。「函館にあるすべての企業に卒業生を送り込んでIT化を進めたい」(中島秀之学長)との目標を持つ同大学は、ITを使った地方創生の担い手としても期待されている。

開放的すぎる学舎がオープンマインドを生む

ちょうど函館山の向かい側に位置する公立はこだて未来大学
 観光都市として全国的に名高い函館。夜景の美しさで知られる函館山から見て、五稜郭(ごりょうかく)の市街地を挟んだ向かい側の山腹に建てられているのが公立はこだて未来大学だ。付近からの街と函館山と津軽海峡の3つが一体化した眺めは、地元民の密かな眺望スポットとしても知られる。  全面ガラス張りとなった5階建ての“校舎”は一見すると企業による研究所風だが、内部には天井や壁、扉といったものがほとんどない。  教室や研究室はあるが、大半がオープンスペースか、各教室には仕切りこそあってもガラス張りとなっている。階段状に作られた校舎の上階からは、各階に天井がないため、誰がどこにいて何をやっているのかが見渡せるような作りとなっている。  従来の大学では見られないようなオープンすぎる学舎は「教員と学生の距離がきわめて近い。オープンスペースでオープンマインドを生み出す環境」(中島学長)だ。

目立つ民間出身の教員、深い連携で独自の教育

中島学長は国の「地方創生IT利活用推進会議」でも主査として議論をリードする立場にいる
 はこだて未来大の教員には、NTTドコモやソニー、東芝、富士通、日立、日本IBMなど民間IT大手の出身者が目立ち、前職が雑誌編集部だったり、アーティストだったりした教授もいる。  学究の道を進んできた大学出身者と、多彩な経歴を持つ教員が入り混じって新しい何かを生み出すためにも、あえて“研究室に閉じこもらない環境”が必要だったようだ。  「本大学では教員間の仲が驚異的に良く、(出自が異なることによる)“異文化”の交流に役立っている。先生が集まって毎年スキー合宿まで行っているほど」と中島学長は明かす。  こうした教員側による深い連携によって実施されているのが「プロジェクト学習」という同大独自の科目だ。  同大3年次の学生が全員参加する科目で、2~3名の教員と10~15名の学生が1つのチームとなり、主に地域の課題を解決しながら実践力を学習しようという試みとなっている。

専門分野を融合し、協働することで課題を解決

キャンパス内は天井や壁、仕切りが極端に少ない
 たとえば、観光都市である函館の新たな公共交通システムを提案したり、観光を盛り上げるイカ型ロボットを作ったり、地元自治体のキャラクターをデザインしたり、廃業した銭湯を交流拠点としたりといった、まさに函館という街全体を“キャンパス”と見立てた取り組みを行っている。  同大学はシステム情報科学の単科大だが、「情報アーキテクチャ」と「複雑系知能」の2学科を設置。そのなかでは、システムエンジニア(SE)を養成する「情報システム」コースから、斬新な高度ソフトウェアシステムを設計する「高度ICT」、ユーザエクスペリエンス(UX=使いやすさ)を追求する「情報デザイン」、コンピュータと数理をベースにシステム思考を学ぶ「複雑系」、人工知能(AI)を研究する「知能システム」という5つの専門分野に分かれている。ITという共通の“土台”はあるが、研究内容はかなり異なる。  世の中の課題には、1つの専門分野だけでは解決しづらいことが多数ある。IT分野内での異なる専門性を持ち寄って協働することで、解決策を導ける可能性が高まる。プロジェクト学習は教員も学生も専門分野にとらわれることなく、全員で協働できる貴重な場として存在している。  地元の課題解決を担う実戦的な人材を育てることに加え、同大学には函館ならではの課題を解決するため、世界でも類を見ない特殊な研究に取り組んでいる。それが漁業のIT化だ。(後編につづく) 【後編】<函館の未来大学>世界でも例を見ない「マリンIT」が漁業を救う(2015年5月14日)
《西村健太郎》

特集

page top