<函館の未来大学>世界でも例を見ない「マリンIT」で漁業を救う | 東京IT新聞

<函館の未来大学>世界でも例を見ない「マリンIT」で漁業を救う

コンシューマー 産業のIT化

北海道函館市で地域のIT化を支える公立はこだて未来大学。15年前の2000年4月に地元自治体が共同で設立した公立大学は、街全体をキャンパスに見立て、地域の課題をITを使って解決を目指す実戦的カリキュラムを導入しているのが特徴。函館ならではの研究分野が世界でも例を見ない「マリンIT」と呼ばれる漁業分野のIT化だ。(前編からつづく

自動イカ釣り機メーカーから大学教授に転じる

公立はこだて未来大学でマリンITを研究する和田教授
 函館市が位置する渡島(おしま)地方は、2市9町のなかに60以上の漁港が存在する北海道有数の漁業生産地。その割合ではホタテ養殖がもっとも高いが、名物駅弁の「いかめし」で知られるように、イカ釣りは函館地方の漁業を象徴する存在となっている。  「実はイカ釣り船は相当にオートメーション化が進んでいて、IT化がしやすい分野」と話すのは、公立はこだて未来大学でマリンITを研究する和田雅昭教授だ。  同教授は函館市内にある北海道大学の水産学部を卒業後、地元の東和電機製作所という著名な自動イカ釣り機メーカーで技術者として活躍した。  自ら全国各地の漁船に同乗しながら、漁業現場におけるIT化の必要性を痛感。大学教授に転じた経歴を持つ。漁業の課題と可能性をもっとも知る研究者であり、イカ釣り研究の専門家ともいえる。

激減するイカの漁獲量、ITで漁業の効率化が必要

集中制御できる自動イカ釣り機など、イカ釣り船はオートメーション化が進んでいる(東和電機工業のWebサイトより)
 和田教授がマリンITによって目指すのは、新たな技術の導入によって“強い漁業”を作ることだ。  イカ漁を例にあげると、全国の漁獲量は最盛期だった1996年の半分以下にまで落ち込んでいる。IT化によって、効率的で儲かる漁業に変えていきたいとの思いがある。  イカ釣り船の場合、ほぼすべての船に自動イカ釣り機が搭載されている。小型船でも10数台の機械が積まれ、集中制御盤によって一人で操ることが可能だ。釣り機の運転状況はモニターで確認でき、機械ごとの漁獲量も一目で分かる。  ただ、こうした貴重なデータが船ごとに収集されているだけで、漁業を効率化するための“ビッグデータ”として有効活用されていない点が課題だ。  どの漁場のどんな水深で、どのくらいの水温の時にどれだけの漁獲量があったのか、というデータを蓄積して分析すれば、高い確率で効率的に水揚げできる場所や時間を推測できる可能性が高まる。

漁業者は情報共有に否定的も、資源は枯渇

漁業や養殖の生産(漁獲)額は1982年の3兆円弱をピークに2012年は半分以下の規模にまで縮小している(水産庁「図で見る日本の水産2012年版」より)
 一方で漁業は個人の勘や経験、能力こそが収入の源となるため、情報共有には否定的な考えを持つ漁業者は多い。ライバルに塩を送るような行為は、自らの漁獲減にもつながりかねないからだ。そのため、イカ釣り船でのIT化はまだ実験段階にある。  しかし、日本の海域で水産資源は確実に減っているのは事実。かつて北海道でもニシン漁で栄えた地域があったが、ある時期からぱたりと採れなくなったように、資源を守りながら漁業を行わないことには、いずれは枯渇し、漁業全体が沈滞化することにもなりかねない。  IT化による効率化が不可欠なことを、まずは漁業者に理解してもらう必要がある。

船にGPS、漁師にiPadでナマコ資源を守りながら獲る

留萌市で行った実証実験の様子と漁獲高を書き込むアプリの画面(地方創生IT利活用推進会議「ITによる漁業再生」[PDF]より)
 和田教授は2003年から日本海側の留萌(るもい)市でナマコ資源の保全とIT化を目的とした実験を行ってきた。  船にモバイルコンピュータやネットワークカメラを設置したり、海底の地形図を作製したりなど、先進的な実験を展開。数百万円はする海水温観測ブイを10万円で開発してほしい、という要望にも応え、地元漁業者との信頼関係を築きながら、IT化の必要性を説いてきた。  GPSで船を追い、どれだけの漁獲量があったのかを調査するために、漁業者にiPadを配布。70歳代でも使えるデザインのアプリも開発したことで、データの収集に成果をあげている。  和田教授がマリンITの研究をはじめてから10年が経った。最近では、経験と勘の塊のような大間(津軽海峡をはさんだ青森県下北半島の先端)のマグロ漁師がIT化したいという話も舞い込んでくるようになった。全国各地の漁業組合や行政からの相談も数多い。  さらにはこれまでの技術をインドネシアに輸出し、現地での活用も始まっている。  世界に類を見ない漁業のIT化という研究は、日本国内だけでなく海外にも広がりつつある。「今後はマリンIT技術を標準化しなければならない」と和田教授はいう。  はこだて未来大学から生まれたマリンITは、地元の主産業を再興するだけでなく、世界の漁業を変える可能性を秘めている。 【前編記事】 地域の課題をITで解決する人材を育成、公立はこだて未来大学の挑戦(2015年5月14日) 【参考記事】漁業ITを切り拓いた研究者の熱い物語~和田氏の著書『マリンITの出帆』紹介記事(2015年5月2日)
《西村健太郎》

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