電子版から5年、日経のあくなき野望が新聞界のあり方変える可能性 | 東京IT新聞

電子版から5年、日経のあくなき野望が新聞界のあり方変える可能性

エンタープライズ 市場動向

電子版から5年、日経のあくなき野望が新聞界のあり方変える可能性
  • 電子版から5年、日経のあくなき野望が新聞界のあり方変える可能性

日本経済新聞の電子版が創刊5周年を迎えた。日本で初めての本格的ニュースサイトとして順調に拡大し、有料読者数は40万人に達した。今月(5月)17日にはパソコン向けのトップ画面を大幅に見直し、スマートフォン(スマホ)向け新アプリも相次ぎ投入するなど、進化を続けている。

堀江貴文氏が提唱したカンファレンスに登壇

日経電子版について尋ねる堀江氏(右)とそれに応じる日経執行役員の渡辺氏(「iMEDIA SUMMIT(アイメディアサミット)2015」で)
 今月(5月)11日から2日間にわたって開かれたネットやモバイル関連のメディア・広告業界向けのカンファレンス「iMEDIA SUMMIT(アイメディアサミット)2015」では、3つのセッションに3人の日経関係者がそれぞれ登壇し、現状や戦略について語った。  同カンファレンスの提唱者である堀江貴文氏も気にする日経電子版の今後はどうなるのか。  「日経電子版は成功しているんですか。社内的にはどういう認識なんですか」。  2日間にわたるカンファレンスの最後のセッションで、日経電子版事業の責任者である執行役員の渡辺洋之氏に対し、堀江氏は担当直入に質問した。渡辺氏はこの質問に直接答えず、にやりと余裕の笑顔で切り返した。

日経売上高の5%超を占めるまでになった電子版

新しくなったパソコン向けのトップページでは、大き目の写真を増やし、一方で無駄な色はなくして、すっきりしたイメージに
 数字は雄弁だ。別セッションでの説明などを総合すると、日本経済新聞電子版の会員は約260万人いる。そのうち、ほぼ15%にあたる約40万人が有料読者だ。このうち半分が紙と電子版を併読しており、残り半分が電子版だけを購読している。  併読の場合は電子版の上乗せ額が月額1000円で、電子版単独の場合は月額4200円。単純な掛け算をするとすでに年間売上高は100億円を超える規模になっている。日経の2014年12月期の売上高が1704億円だから、すでに5%以上の影響があることになる。  また、設立2年半のニュースキュレーションアプリ「Gunosy(グノシー)」の2015年5月期の売上高が30億円程度とみられる。事業モデルも異なるため一概に比較できないが、IPOしてもおかしくない規模感ではある。

新アプリ「もっと日経」で他紙読者も奪う?

新アプリ「もっと日経」では紙面をカメラで撮ると関連記事が表示される
 日経の飽くなき規模拡大の意欲は最近公開したアプリからもうかがい知れる。新アプリ「もっと日経」は、かなり野心的なものだ。  新聞紙面をスマホで撮影すると、文字を認識し、関連する記事を表示する機能がある。連載記事の途中回を撮影した場合には、連載の一覧が表示されるなど便利だ。  それだけなら、どうということはないが、“裏技”とも言えるような機能が隠されている。実は朝日や読売などほかの新聞の紙面を撮影しても日経の記事がリコメンドされるのだ。  有料会員向けとはいえ、「読者を奪い取ろうというのか」(他社の記者)という声も聞かれた。

「誰だか分からない100万人より、本当に必要な20万人」

さまざまなキャンペーン展開で有料会員を増やしている日経電子版
 電子版の会員が増えると、日経は従来にない収益事業を育てることも可能になる。  「初めてBtoCの会社になりました」――。  「メディア・マネタイゼーション:課金か?広告か?それとも第三事業なのか?」というセッションに登壇した日経のデジタル編成局次長はこう話した。紙の新聞はもともと、新聞販売店を通じて読者に届く。そのため、どんな人が新聞を購読しているか、新聞社には分からなかった。  電子版は日経本体と直接契約するため、読者の性別や年齢が分かり、どんな記事がどんな時間帯にどんな状況で読まれているかが認識できるようになった。  「ブランデッド・コンテンツと新たなマーケティング手法」というセッションに参加した同社デジタルビジネス局の部長は、「誰だか分からない100万人より、本当に必要な20万人へのリーチを(広告主に)提供したい」と話した。読者の属性がわかれば、追加でコンテンツや商品を購入させることもやりやすくなる。

従来のメディアの役割を超えた事業を構想

 日経は最近、「読む日経から使う日経」という方針を掲げている。昨年、資本業務提携した米エバーノートの情報整理機能も今年になって電子版に実装した。  名刺管理のsansanやイベントチケット販売のイベントレジストといったベンチャー企業への投資も、サービスを拡充するための手段だ。  日経の渡辺氏は堀江氏とのセッションの最後に突如、「メディアは行動を起こすきっかけを与えるもの」と発言した。  ニュースサイトとしては国内ダントツの足場を固めた日経電子版は、情報提供という従来のメディアの役割を超えた事業を構想しているのかもしれない。  再販売価格維持制度で新聞の価格が守られている業界がその利益を原資に他の事業に手を広げることには議論があるかもしれないが、日経の勢いは止まらない。
《鈴江 貴》
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