介護現場の人材不足、IT活用で解決を試みるベンチャーの奮闘 | 東京IT新聞

介護現場の人材不足、IT活用で解決を試みるベンチャーの奮闘

コンシューマー 産業のIT化

ITで高齢者介護を支援したい――。スマイル・プラス(大阪市西区、伊藤一彦社長)の事業が注目を集めている。介護のなかでも「レクリエーション」という分野に特化し、ノウハウ共有のためのWebサービスや現場で活用できる動画配信などを通じて介護業務を後方から支援。新たな資格制度を立ち上げるなど、介護現場の激務や人手不足の解消という大きな課題に立ち向かっている。

現場では“三大介護”と「レク」が大事な仕事

介護施設では日々レクリエーションが行われており、入居者の日常を豊かにするためにも欠かせない活動とされている(「レクリエーション介護士」の紹介サイトより)
 介護現場では、食事や排泄、入浴といった生きていくうえで不可欠な介助業務は“三大介護”と呼ばれ、最重要視されている。  加えて、介護施設では高齢者が日常を過ごすための「レクリエーション(レク)」の運営も大事な業務。個人の嗜好に応じて体操をしたり、絵を書いたり、ゲームを行ったり、将棋や麻雀などを楽しむといった活動だ。  高齢者が施設での日常を豊かにするために欠かせないものだが、三大介護に追われる現場職員にとっては、レクの準備にまではなかなか手が回らない。  スマイル・プラスはこの「介護レクリエーション」分野の支援を専業とする“ITベンチャー”として2010年に大阪で創業した。

介護レクの素材やネタをWebから無料提供

2010年にスタートした「介護レク広場」の無料会員数は6万8000人
 「高齢者は食事や排泄、入浴の介助を受けている時間より、それ以外の時間のほうが長い。介護レクリエーションは日常生活そのもの。毎日のことだけに準備する側の負担は大きく、何らかの形で支援できないかとの思いがあった」と伊藤社長は話す。  そこで同社が始めたのが「介護レク広場」というWebサービスだ。ここでは介護レク用の「素材」や「ネタ」を無料で提供。ぬり絵や紙工作、脳トレーニング的なクイズや計算問題といった素材がダウンロードできるようになっている。  これ以外にもレクの内容と運営方法が詳細に記した“レクネタ”も用意。介護現場の職員が困った際、同サイトを閲覧すればレクの準備や運営が容易にできるという仕組みだ。  2010年の開設以来、同サイトの会員数は6万8000人にまで達した。その85%が介護事業に携わる人だという。

新資格「レクリエーション介護士」も立ち上げ

2014年9月に始まった新資格「レクリエーション介護士」は今後、資格取得者を対象に上位資格となる「1級」も設ける予定
 同社が介護レク支援のサイトを運営するなかで、介護レクに関する知識やノウハウが現場の職員に共有されていないという課題を知ることになった。  現在、介護福祉士などの公的資格を得る際にも介護レク分野は学ぶ必要がなく、知識を得られる機会がなくなっているためだ。  そのため同社は、介護レクの技術やノウハウを体系化して普及させることの必要性を痛感。現場の職員が運営に困らないようにと昨年9月に新たな資格制度の「レクリエーション介護士」を立ち上げた。  この資格は、スマイル・プラスが経済産業省の受託事業で全国200施設を訪問ヒアリングを行ったことを契機に生まれたもので、現在は同社創業者である荒川弘也氏が運営する一般社団法人日本アクティブコミュニティ協会(大阪市西区)が運営主体となっている。

8000人が講座受講、介護ボランティアにも人気

介護レク分野の「学ぶ」「使う」「働く」の3分野でサービスを展開している
 レクリエーション介護士は資格制度としては1年にも満たない新しさにもかかわらず、通信教育大手のユーキャンや各地の専門学校が講座を開設するなど、試験を受けるために必要な3カ月間の講座を延べ8000人超が受講する。  「取得するのは介護現場の職員などが中心だが、介護の基礎を学べるためボランティアを行っている人にも需要があり、資格取得第一号は現役のNTT社員の人だった」(伊藤社長)。  同社では資格制度に加え、取得後の就業を促すための人材マッチングサイト「すまいるワーク」も開設した。掲載自体は無料で、正社員1人が就職した際に10万円の成功報酬という形にすることで、介護施設の求人にかける負担を軽減。全国1000施設の求人情報を掲載し、人手不足の解消を目指す。

NEC勤務後に起業、恩師が始めた事業に参画

スマイル・プラスの持ち株会社であるBCCホールディングスの社長もつとめる伊藤氏
 もともとスマイル・プラスは、伊藤社長のNEC時代の恩師だった荒川氏(日本アクティブコミュニティ協会理事長)が立ち上げている。  伊藤氏はIT業界に特化した営業アウトソーシング事業を受託する営業創造株式会社(大阪市西区)の創業者で社長だったが、荒川氏が介護業の支援に全精力を注ぐ姿に共感し、営業創造の経営を後進に任せスマイルプラスの社長に就任。現在、営業創造とスマイルプラスは、伊藤社長がトップをつとめるBCCホールディングスの子会社となっている。  「売上の大半は営業創造が稼いでいる状態だが、介護分野はこれから伸びる。営業受託の形で複数の大手IT事業者に入り込んでいる強みもあり、介護とITの連携を加速させていきたい」(同社長)。  今年3月にはスマイル・プラスがNTT西日本と提携し、介護レクの現場で使える映像や、介護レクを学べる動画コンテンツを配信するサービスも始めた。  「NTT西日本が提供する『光BOX+(プラス)』はテレビに繋ぐだけでネットコンテンツが見られるため、たとえITに関する知識がなくても現場で手軽に使ってもらえる」(同)。

IT導入を躊躇する風潮の介護現場を変えられるか

今年3月にNTT西日本と始めたサービスでは、配信する動画コンテンツをすべてスマイル・プラスが自社制作している
 伊藤社長はNECでの勤務経験や営業創造で大手IT企業から営業業務の受託を専業としたこともあり、IT界におけるテクノロジの進展状況やニーズを敏感に感じてきた。それだけにIT化が進まない介護現場にこそ、ITで支援していきたいとの思いが強い。  「介護業界全体に“介護は人の手で行わなければならない”という強い思いがあり、IT導入には躊躇(ちゅうちょ)する傾向がある。ただ、高齢者に喜んでもらえるのなら、とiPadを導入してレクリエーションに上手く活用している施設も多い。この先、高齢者とのコミュニケーションやレクの場にロボットを活用することで現場職員の負担を減らすこともできるはずで、この分野にも参入したいと考えている」と伊藤社長は力を込める。  国内の介護施設で働く人の数は120万人超で、訪問介護の職員なども合わせると170万人以上におよぶ。この数年は右肩上がりで増えてきたが、10年後には約250万人が必要だと予測されており、現状のままでは人材供給が追い付かないといわれる。  伊藤社長が強く訴えるように、ITを上手く活用して現場の負担を減らすことが、人材不足解決の糸口となる可能性もある。スマイル・プラスが果たすべき役割は大きい。
《東京IT新聞 編集部》

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