「植物工場」で障がい者の雇用広げる、東京板橋の福祉施設が実践 | 東京IT新聞

「植物工場」で障がい者の雇用広げる、東京板橋の福祉施設が実践

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「植物工場」で障がい者の雇用広げる、東京板橋の福祉施設が実践
  • 「植物工場」で障がい者の雇用広げる、東京板橋の福祉施設が実践

障がい者の雇用を広げるために「植物工場」(野菜工場)の仕組みが大きく役立つかもしれない。太陽の代わりにLED(発光ダイオード)による人工光を使って野菜などを育てる植物工場が都内の福祉施設内に誕生した。障がい者向けの施設が設置したものとしては首都圏で最大級だという。レストランも併設し、栽培した野菜を使ったメニューを提供する。雇用の場を広げるとともに、収入を増やすための取り組みとして注目を集めている。

東京・高島平にある「板橋福祉工場」が導入

地下鉄三田線の西台駅から徒歩10分の場所にある「東京都板橋福祉工場」、植物工場は第2工場内に設けている
 今年(2015年)5月に植物工場を設置したのは、社会福祉法人の日本キリスト教奉仕団アガペ東京センター(東京都板橋区)が運営する「東京都板橋福祉工場」。同区内の高島平地区にある。  福祉作業所は、身体や知的機能に障がいを持つために、一般的な就労が難しい人を対象とした就労施設。自治体やNPOなどの各種団体、親などが共同運営するケースが多いことから、共同作業所とも呼ばれ、全国に大小6000カ所程度が存在するとみられる。  板橋福祉工場は、主に身体障がい者向けの就労施設だったが、2012年からは知的障がい者の受け入れも開始。封入や簡単な組み立てといった軽作業の受注業務を始めた。  ただ、これらの軽作業は、部分的で単調な仕事なうえに、作業工賃が低いという課題があった。一般的に知的障がい者が1カ月間勤務したとして、1万円程度の給料にしかならないといわれている。  こうした状況の打開を目指し、運営者である日本キリスト教奉仕団アガペ東京センターが新たに取り入れたのが植物工場だった。

水とLEDで栽培、無農薬で栄養価も高くなる

LED型の植物工場システムの開発を得意とするキーストーンテクノロジー
 植物工場は土と太陽の光で育てる農業とは違い、建物の中で人工的に農作物を育てるシステム。「野菜工場」とも呼ばれている。天候や日照時間といった外的要因に左右されることなく計画的な収穫が可能なため、“工場”という名で呼ばれる。  今回、同施設が導入したのは、LED光源を利用した水耕栽培システムというもの。土の代わりに水を使い、太陽の代わりにLEDの光を利用して野菜を育てる仕組みだ。  システムを開発したキーストーンテクノロジー(横浜市中区、岡﨑聖一社長)によると、植物は水に溶けた酸素や養分を吸収し、土の抵抗を受けずに根を伸ばせるため、成長に必要な成分を多く吸収できるという。一般の農業のような土壌作りが不要のため、未経験者にも取り組みやすいというメリットがある。  加えて植物工場で野菜を育てた場合、無農薬で栄養価の高い作物ができるという特徴もある。農作物の病気は多くが土を介したものといわれる。植物工場では土自体を使わないため、農薬の必要がない。  さらに、LEDの光によって育てることで、β-カロテンや総ポリフェノールといった機能性成分の含有量が高くなるともいわれている。

健常者と障がい者の分け隔てなく就労が可能

併設するピザレストラン「モニカ」の前に立つ同施設の毛利さん(右)とキーストーンテクノロジーの木村さん

 板橋福祉工場では、施設内に植物栽培ユニット14台を設置し、レタスやスウィートバジル、ルッコラ、ミント、エディブルフラワー、小松菜など数種類の葉物野菜を栽培する。

 月間で7200株を収穫できるといい、これは、東京ドームの4分の3くらいの広さを持つ畑で取れる収穫に相当する量だという。

 現在30人の知的障がい者が交代で作業を担当し、収穫した作物は併設するピザレストランでピザやパスタなどに使われる。  このほか、同店内や近隣の駅構内では産直野菜として販売も行われている。 
収穫した野菜は地元の駅構内などで販売されるほか(写真上)、併設のピザレストランでは食材として使われている(下)
 植物工場の栽培管理はもちろん、併設レストランでの接客や駅構内などでの販売も知的障がい者が担当し、生産から販売までを包括的に取り組むことが可能となった。  「何かを封入したり、部分的な組み立てたりする作業の場合は仕事の全体像が見えないが、植物工場の場合は種植えから収穫、栽培、販売と一連のプロセスが見えるため、働く人々に好影響を与えている」と同施設の総務グループマネージャーである毛利龍夫さんは話す。  加えて、植物工場の管理や栽培に関する作業は部分ごとに切り分けることができるため、「知的障がい者が行うのに向いている」(同)。  システムを開発したキーストーンテクノロジーの事業企画・研究企画責任者である木村龍典さんは、「植物工場では健常者と知的障がい者のわけ隔てなく就労が可能なため、福祉作業としては高めの工賃を設定することができるはず」と話す。  植物工場は障がい者の作業にマッチしていることもあり、5年ほど前から福祉作業所に導入するケースが増えつつあるという。

「オイシックス」に出荷、売上増えれば賃金も増える

板橋福祉工場で作られた野菜は「キレイをつくる サラダリーフミックス」という名の高機能商品として販売されている
 このところ、異常気象で特定の野菜が売り場から消えるような現象が起きていることや、食の安全に対する関心が高まっていることから、安全な野菜づくりが可能といわれる植物工場には“追い風”が吹いている。  現在、板橋福祉工場で作られた野菜は、通販大手「オイシックス」に出荷するなど、品質の高さが認められつつある。  今後、地元の“板橋ブランド”の産直野菜として売り出すなどで、さらに高付加価値を付けられる可能性が高い。また、作物の販売を通じ、地域社会との交流も活発になる。  そして、野菜の売上が増えれば、知的障がい者への賃金を増やすことにもつなげられる。  福祉現場での課題解決を目指すうえで、植物工場の導入は今後の潮流となるかもしれない。 【写真上】東京都板橋福祉工場で今年(2015年)5月に開設した植物工場 【関連記事】期待が高まる農業のIT化 植物工場やセンサで生産管理が可能に(2014年10月28日)
《渡部郁子》
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