<IT坊主の説話>企業も個人も「一大事」をどう考えて備えるか | 東京IT新聞

<IT坊主の説話>企業も個人も「一大事」をどう考えて備えるか

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IT界と仏教界を経験した現役僧侶の“IT坊主”こと牧野豊潤(ほうじゅん)氏がITビジネスで役立つ「説話」を連載。世の中でもっとも新しい業界であるITの世界に、2500年の歴史を持つ仏教の教えは通用するのでしょうか――。今回(第21回)は「一大事」という言葉をどうとらえ、行動していくべきかを考えていきましょう。

本来はありがたい状態を指していた「一大事」

 一大事とは、「国家の一大事」「簡単には解決できそうもない大きなトラブル」「人生の一大事」「放置できない重大な我が家の一大事」など、容易でない事態で、悪い影響をもたらすような物事が起こったときに使われる言葉です。  「もろもろの仏は、ただ一大事の因縁をもってのゆえにのみ、世に出現したもう」。  この言葉は、仏教経典の一つである『法華経』の中の一節で、意訳すると、「すべての仏たちは、ただ一つの大事をなすためだけにこの世に現れる。その大事とは仏の行う偉大なことで、すべての衆生(人)の能力・気質・境遇などの違いを越えて、等しく自らと同じ知見を得させ、覚りに至らせる」ということです。  その意味合いは、次のように説明できるでしょう。  「お釈迦さまをはじめ諸仏(仏たち)は、仏法をもって重要な由縁(人が生まれた意義、教えを説く意義など)について、皆等しく衆生済度(人々などを救う)することを生涯の使命として、この世に誕生(出現)したのです。これを一大事と言うのです」。  元々は仏がこの世に出現し、大切な仕事を行う状態を指して一大事と言い、良い意味(ありがたい状態)を表す言葉でした。  これが一般に広まり、やがて重大な出来事を意味するようになり、それが時代の変遷とともに使われ方が変化しました。その結果、主に悪い意味で大きな問題などが起こった時に使われるようになったのです。

一日一日を大切に生きることが一大事である

 「そもそも私たちは何のためにこの世に生まれてきたのか、何のために生きていくのか」。  こういった人類永遠のテーマを少しでも明らかにするように努力するのが仏法者の努め。仮に明らかにできなくても、ただ漠然と日々を過ごし時間を無駄に費やすことなく、一日一日を大切に生きること、人生を実のあるものにするために賢明に生きること、それが一大事である――。  こんな禅宗の教えがあります。これは、今の自分の足下(現実)には、明日を、そしてその先にある未来を、より良くするための一歩があり、一大事は今この瞬間にあるとして、「一大事とは、今日、今の心なり!」という言い方もします。  そのためには目的や目標を明確にすること。身近な所での1年先、次の5年先、10年先、30年先……は、こうありたい、こうなりたいと思う(願う)ことが重要です。

一度きりの人生、後悔しないためにも

 よく「現代のような競争社会にあっては」などというキーワードの記事を目にしますが、社会(政治や経済など)は生きものであると考えれば、競争は社会が発展し、変化していくなかでの一つの流れと捉えるのが自然です。  競争は人の能力を向上させ新しいもの(こと)を生み出す原動力にもなります。  人間の持つ能力や才能が評価されることは、本人のやる気や充実感、満足感を高めたりもします。人には各々いろいろな能力や才能があります。それらを見つけだして伸ばしていくことが重要であることは当然のこと。偏差値重視の時代にあっても個性を伸ばしてきた人が大勢いて、活躍されているのも現実です。  時間(時)の流れは早いものです。一度きりの人生、後悔しないためにも目標を持った日々にすること。そう思う今が一番の大事です。

企業における一大事にどう備えるべきか

 企業が将来へと継続するなかで、一大事(緊急事態)は起こりえます。  今から4年と少し前、2011年3月11日に発生した東日本大震災では、貴重な人材や設備を失い、廃業に追い込まれた企業が多くありました。  復旧が遅れ、サービスや製品が供給できずに顧客が離れ、事業の縮小や従業員の解雇という事態になったりもしています。  こうしたいつ発生するかわからない緊急事態への備えとして、企業の事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)の策定があります。  ただし、緊急事態がBCPの想定外でのことであったり、いくらBCPを策定していても、普段行っていないことを緊急時に行うことは難しいもの。緊急時に的確な決断を下すには、あらかじめ対処の方策について検討を重ね、日頃から継続的に訓練しておくことが重要です。  東日本大震災での反省としては次のような点が報告されています。 
  •  BCPは「万能な計画である」と誤解されていたこと
  •  震災後に発生した様々な事象に対応できる柔軟性に乏しかったこと
  •  連鎖的に発生した様々な事象への対応の検討が不十分だったこと
  上記の反省点などを教訓として、今後の対応への質を少しでも高め、いざという時後悔しないために今できることを行うことです。  将来起きるかもしれない企業の緊急事態に備え、今、行なっておくべきことは何か。知恵を絞って考え備えること、それが一番の大事です。

今行なうべき判断や決断に間違いはないか

 大事件や災害、災難、危機などの大変な状況に遭って、それが命に関わることであったとすると、それは究極の緊急事態です。  今、将来起こるかどうか判らないリスク(起こる可能性のあること)や脅威のことを捉えて一大事と考えるのではなく、今行なうべき判断や決断に間違いはないか、今行なうべき手立てに手抜きはないか、備えに漏れはないかなど、その“今”が大事です。  「蟻の一穴」ということわざがあります。人が脅威を作りこんでいることがあるとすると、それこそ一大事です。起こさない(発生させない)ようにすることが大事です。合掌 ※事業継続計画(BCP)とは 災害や事故等など発生し操業度が一時的に低下した場合でも、その事業所にとって中核となる事業については継続可能な状況までの低下に抑える(中核事業は継続させる)、また、回復時間をできる限り短縮させ、できるだけ早期に操業を回復させることにより事業所の損失を最小限に抑え、事業を継続させていくための計画のことです。事業継続と復旧計画(BCRP :Business Continuity & Resiliency Planning)とも呼ばれます。
《牧野豊潤(まきの・ほうじゅん)》

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