<業界6位のビール会社ヤッホー>社長自らメルマガ執筆しブームを創出 | 東京IT新聞

<業界6位のビール会社ヤッホー>社長自らメルマガ執筆しブームを創出

コンシューマー サービス

Webの巧みな利用によってヒット商品を創りあげた企業がある。他社と何が違うのか、現実の施策をどのように進めたのか――ITマーケティングの成功例をひもとく本連載。第1回は長野県軽井沢町に本社を置くヤッホーブルーイング。社長のユニークなアイデアとメールマガジンが大きな話題を呼び、ビール業界で旋風を起こしている。

誤算だった「地ビールブーム」と売れない時代

定番ビールとして売り上げを伸ばし続ける「よなよなエール」
 「クラフトビール」が流行の兆しを見せている。  今まで日本で流通してきたビールの多くは、大手メーカーが醸造する「ピルスナー」というスタイルのビールだった。だが、世界には「ペールエール」「スタウト」など様々なスタイルのビールがある。これらは高品質な「手工芸品(Craft)」に例えられクラフトビールと呼ばれる。  ブームの火付け役は、大手4社とオリオンビールに次ぐ業界6位に躍進したヤッホーブルーイング。大ヒット商品の「よなよなエール」をご覧いただけば「これか!」と思う方が多いだろう。  だが、同社の歩みは平坦ではなかった。井手直行社長が話す。  「1990年代後半に創業してすぐ『地ビールブーム』が起きたのが誤算だったんです。当初は爆発的に売れたのですが、その後、ブームに乗じて値段が高い割に品質がよくないビールが売られ始め、2001年頃には、まったく売れない時代が来たんです」。

楽天の出店者向けセミナーで気付かされる

ネット上では「てんちょ」と呼ばれている井手社長
 テレビCMも打ったが、世の中にそっぽを向かれた流れを逆流させることはできなかった。  「弊社は長野県にあるので、スキーや温泉にいらした観光客向けに土産店の軒先を借り試飲即売会実施したこともありました。冬の夜、頭に雪を積もらせながら売るほど頑張りましたが、急場しのぎにしかならなかったですね」。  そんな中、井手社長は当時、一気に成長していた楽天市場での通販に注力しようと決意した。楽天に出店はしていたのだが、担当はおらず開店休業状態だったため、すべてをリニューアルすると決めたのだ。  そして楽天の出店者向けセミナーに出席した時、彼は自分の人生、さらには、結果的に日本のビール市場を変えることになる一言を聞いた。  「自分にできることをやりましょう!」。  当時のヤッホーブルーイングの販売ページは、デザインが悪く何年も昔のホームページのようだったし、写真も下手だった。そこで井手氏はセミナーの講師に「ウチのページのデザイン、きれいにしたほうがいいですよね?」と聞いた。すると講師は「井手さんには何ができるんですか?」と聞いてくる。井手氏が振り返る。  「ところが、当時のボクは、デザインはおろか、店舗作成ソフトの機能もロクに使いこなせなかったんです。そこで開き直って『ビール屋なので、ビールのことには詳しいですよ。ビールへの思いもあります。そういうのを人に伝えることは、ボクにもできます』と答えたんですよ」。

誰でも書ける内容だとまったく読まれない

ヤッホーブルーイングのWebサイト、イベントの告知も多く掲載されている
 すると、井手社長は講師にこう言われた。  「それですよ! 井手さん、自分にできることをやりましょう! いま楽天には、何千店というお店があって、なかには凝ったデザインのお店もあります。でも、デザインがいいのに売れていないお店って、いっぱいあるんです。デザインと中身、どっちが大事かといったら、断然、中身なんです」。  ネットの登場によって、情報は無価値になった。ありきたりな情報は、すべて目に通されることすらなく捨てられる。井手社長が話す。  「その後、メルマガに注力したのですが、“夏の暑い夜は『よなよなエール』で乾杯!”といった、誰でも書けるような内容は、まったく読まれませんでした」。  売らんかなの気持ちで書いてはいけないのだ。読者は、ただひたすらに、面白い情報がほしい。たとえば2年間寝かせてつくる「英国古酒」という商品について書いた時は、すさまじい反応があった。文面はこうだ。   「英国古酒」はイギリスで生まれ今でも飲み継がれている  伝統あるお酒です。18世紀の中頃、葡萄が採れない英国では、  欧州大陸のワインに対抗するため大麦から造ったビールを  バーレイワインと呼ぶようになりました。   数年間にわたり樽の中で熟成させるその製法は、経験豊かな  醸造技師が情熱を傾けることで初めて可能になります。  深い琥珀の色合い、キャラメルやコーヒーを思わせる香ばしさ~ 
楽天の「ショップ・オブ・ザ・イヤー」受賞時に三木谷浩史会長兼社長(真中)と写った記念写真。井手社長が自ら仮装して盛り上げた
 この英国古酒は、なんと750ml入りで3000円もする。だが、数日で完売してしまうほどの人気になった。  また、「ビールに味を!人生に幸せを!」をコーポレートスローガンに掲げ、自分たちと顧客を「知的な変わり者」と定義づけ、面白い「ネタ」も始めた。木に「よなよなエール」の缶をくくりつけ"ビールの実"が成ったような写真を撮影した。  驚異の「ビール400万円引き!」も実施した。一生、夫婦で「よなよなエール」を飲み続けると、700万円ほどかかる。そこで、300万円お支払いいただけば、一生ビールをお届けする、申し込みがあったら「てんちょ」(=井手氏のメルマガ上でのニックネーム)が昔ながらの酒屋の格好で料金を受け取りに参ります、とした。さすがに申し込みはなかったが、大いにウケた。  「このようなメルマガを書き続けると、固定ファンの方がついてきて下さったんです」。

多彩なイベントやコンビニが驚くほどの大企画も

ローソン限定で2014年10月に発売された「僕ビール、君ビール。」では顧客とともに盛り上がった
 しかも、この盛り上がりはまだ「始まり」に過ぎなかった。  「その後、弊社のビールを知人の方に勧めるほど好きになってくださった方たちに話を聞くと、何らかの機会に弊社の社員と接触し、ファンになって下さった方が多かったんです。そこで『宴』という名のファンイベントを開催してみました」。  その頃には、「よなよなエール」をはじめ同社のビールはマニアの間で話題のビールになっていた。ファンの中には、噂の「てんちょ」と会いに、大阪や北海道から東京の会場へいらした人もいた。  ファンがつけば、イベントは盛り上がる。井手社長がさらに繁盛店の研究をすると、洗車グッズを売る店があり、ネット上で集まってみんなで洗車をする、というイベントを実施していた。井手社長のチームはこれに触発され、新商品発売イベントをユーストリーム(Ustream)で行った。  「2014年10月に『僕ビール、君ビール。』というローソン限定の商品(写真)を発売したんです。この時、缶に描かれたキャラクターがかえるだったので『かえる捕獲大作戦』を行いました。ユーストリーム上で乾杯し、ファンの方たちと『東京の新宿区でかえる捕獲~!』(ローソンで買った、という意味)などと盛り上がったんです」。  結果的に「ローソン史上、例のないほどお客様が盛り上がったビール」になった。ローソンの担当者が「感動しました」と目を丸くするほどだったという。  井手社長が極めたIT活用術は、次のようにまとめられないだろうか。  ただ情報を拡散すればよいのではない。リアルのイベントと、ITを組み合わせ、ファン作りに直結する情報を出し続けなければいけないのだ。だから、個性も出す、笑わせもする。その最高の例が、『よなよなエール』の躍進だったのだ。
《夏目 幸明(なつめゆきあき)》

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