<北九州>市内10大学が連携、商店街キャンパスが地域活性の力に | 東京IT新聞

<北九州>市内10大学が連携、商店街キャンパスが地域活性の力に

エンタープライズ 市場動向

シャッター通りの危機に瀕していたアーケード商店街――。昭和20年代から続く北九州市小倉北区の昔ながらの商店街に、従来の大学とは全く異なるコンセプトの“キャンパス”がある。市内全10大学が運営するこの「北九州まなびとキャンパス」での実践的教育の試みが、学生と行政、企業などの組織の枠組みを超えて、北九州市のまちづくりのあり方を変えようとしている。

大学生が主体となり、地域の課題に取り組む

2013年3月にオープンした「北九州まなびとキャンパス」
 北九州まなびとキャンパスは、市内の国公私立全10大学と地域社会が連携し、実践活動を通じて将来を担う人材を育成するための教育の場だ。2013年3月に小倉駅から徒歩8分ほどの商店街「魚町銀天街」にあるビル内にオープンした。  同キャンパスでは主に2つの教育プログラムを実施している。  1つ目は地元の大学生が中心となり、地域が抱える問題を地域団体や企業、行政とともに解決する方法を考え実践していく、プロジェクト方式の課題解決型学習だ。  現在、約30のプロジェクトが進行中だ。清掃や啓発活動を行う「green bird」や、男女共同参画を伝えていく活動「ガーベラプロジェクト」など、いずれも学生主体で取り組んでいる。  来場者2万人規模の仮装イベントを企画実施する「ハロウィーンプロジェクト」は、西日本工業大学の学生が衣装をデザインし、北九州大学の学生が企画を担当するなど、各大学の得意分野を活かした大学間連携プロジェクトとなっている。  また、西南女学院大学が主体で進める「食から始まる健康プロジェクト」では、ICタグのついた食べ物の模型を利用し、コンピュータで栄養バランスを瞬時に診断する「食育SAT(サッと)システム」を活用した市民向けの食生活無料診断を行うなど、ITを取り入れた体験型栄養教育プロジェクトとなっている。 

年齢や職業に関係なく学びたい人が集う場に

拠点となる施設には“持続可能な開発のための教育”を意味する「ESDステーション」と名付けられている
 2つ目に、まなびとキャンパスは大学生の実践教育の場としてだけでなく、市民の生涯学習の場として多様な教育プログラムを揃えている。  「だれもが先生、だれもが生徒」をコンセプトに、学生だけでなく、誰でも参加可能な講座やイベントが開かれている。講師も大学教員をはじめ、デザイナーや手芸家、アプリ開発者やIT企業の経営者などバラエティ豊かだ。テーマも、小倉の歴史からITビジネス業界の最前線まで幅広い。  拠点となる施設名にも「北九州まなびとESDステーション」と名付けられており、ESD(Education for Sustainable Development)は“持続可能な開発のための教育”を意味する。年齢や職業に関係なく、未来について学びたい人が自由に集う場というメッセージが込められている。

地域の全大学が連携した実践教育は全国初

責任者をつとめる北九州市立大学・地域創生学群長の眞鍋教授
 まなびとキャンパス設置の背景について、責任者を務める北九州市立大学地域創生学群長の眞鍋和博教授は、「地域の活性化と学生の成長の両立」を挙げる。  “座学”だけではなく、自ら考え動いて解決法を学ぶ実践型教育の必要性をずっと感じており、地域の抱える多様な課題に学生が主体的に取り組むことで地域活性化につなげたいとの思いから、文科省の補助金を利用して立ち上げたという。  実践型教育を実施する大学は最近増えてきているが、「大学単独やゼミ単位での事例はあるが、地域の全大学が連携して行うケースは全国的にも例がない」(同)。

商店街組合や行政からのプロジェクト依頼が相次ぐ

 まなびとキャンパスがオープンして約2年半が経過したが、学生の発案がイベントの盛り上げにつながるなど、プロジェクトを通じて学生が地域の担い手となることが実証されつつある。  そのためか「外部からのプロジェクトオファーが後を絶たない」(眞鍋教授)。依頼元は、地域の商店街組合や行政が多く、次いでNPOや企業と多彩だ。  学生のモチベーションも上がった。眞鍋教授は「まなびとキャンパスでの活動が週100時間以上の熱心な学生もいて、『大学には行かないがここには毎日来る』という学生もいる」と苦笑する。

利用者は年間2万人強、商店街の集客にも貢献

年間2万人の利用者が訪れることで商店街の活性化にもつながった
 拠点である北九州まなびとESDステーションが入居する中屋ビルは、築40年以上のビルを全館リノベーションを実施。若い世代が集まる拠点に生まれ変わった象徴的な建物として全国的に注目されている。  同ビルの2階には、北九州近郊に在住するクリエイターによる手作りの雑貨や洋服などを展示販売する1坪ほどのショップが20店ほど並ぶ。  まなびとキャンパスの拠点を大学構内でなく商店街に置いたのは、10大学の共通拠点という意味合いと、地域の人に身近に感じてもらい参加を促したいという理由からだったが、大学生だけでなく社会人の参加も徐々に増えており、年間2万人強が利用している。

市の抱える危機意識が地域ぐるみの活動支える

北九州まなびとキャンパスには、市内にある国公私立の全10大学が参画している
 まちぐるみの実践教育は地域社会の協力がなければ成功しない。  眞鍋教授によると「人口減少や高齢化の問題を抱える北九州市は、行政をはじめとして商店街や企業の危機意識が強く、街をなんとかして活性化したいという共通の思いがあるため、学生の活動に理解を示し非常に協力的。大学同士の距離が適度に近く、都市の規模もちょうど良かった」と話す。  一方で課題もある。まなびとキャンパスの継続だ。現在、事業費は文科省の補助金で賄われているが、来年度いっぱいで打ち切られるため、その後の運営については模索中だという。市からの事業支援を要請しつつ、サービスの横展開などで継続を目指す考えだ。  今のところ、プロジェクトに関わる行政や一部の企業、団体からは活動を評価されているものの、地域全体に認知されているとは言えない。  そのため、今年度は企業主催の“冠”講座や地域の高校への出張講座、若手サラリーマンと大学生との交流会開催など、企業や団体との連携を一層強化する計画だ。市民を巻き込んだ地域社会とのさらなる協働を期待したい。 【写真上】北九州市小倉北区にある「北九州まなびとESDステーション」 【関連記事】「地方創生」へ産官学を結集、大都市・北九州が先導する意外な理由(2014年12月11日) 【参考記事】北九州からIPO企業を!5つのインキュベーション施設でベンチャー育成に熱(2015年3月12日)
《牧 祥子》

特集

page top