テレワーク先進の佐賀県、パソナと組み企業誘致と絡めた壮大実験 | 東京IT新聞

テレワーク先進の佐賀県、パソナと組み企業誘致と絡めた壮大実験

コンシューマー サービス

全国の都道府県庁では初めて全庁テレワークを導入した佐賀県。IT系人材派遣大手のパソナテック(東京都千代田区)と提携し、今年10月から同県鳥栖市で「ふるさとテレワーク実証事業」に取り組む。テレワークによって仕事とヒトを呼び込み、「地方創生」につなげるのが狙いだ。企業誘致の軸足を工場からホワイトカラーの雇用増が見込めるIT企業に移そうとする県の戦略転換も絡む。

残業時間が減って、業務改善につながった

 佐賀県は2014年10月、全庁にテレワークを導入してから既に1年近く経った。旗振り役の森本登志男CIO(最高情報統括監)は「これまでなら職場まで戻って処理していた業務を現場でやり終えてしまう。その結果、職場と現場を行き来する時間が短縮されて残業時間が減り、業務改善につながっている」と導入効果を強調する。  たとえば、山間地の不法投棄。従来は職員が現場に行って撮影したり、調べたりしたことを職場に持ち帰って報告書を作成していた。テレワーク導入後は、職員はタブレットを現場に持参し、タブレットで写真撮影し、調べたことも書き込み、通信環境の整った地点から送信すれば、職場に戻る必要がなくなった。

講演会でパソナテックの執行役員と意気投合

 佐賀県の試みは全国から注目された。森本CIOはテレワークの“エバンジェリスト(伝道師)”となり、各地の講演会を回った。  その一つが今年2月10日に京都市で開かれた。主催者は総務省近畿総合通信局。テーマは「ワークスタイル変革とICT利活用」。講演者のトップが森本CIO。パソナテックの粟生万琴(あおう・まこと)新規事業推進室執行役員が締めた。  テレワークを「近未来の常識」と表現した森本CIOと、「女性の力を活かす」方法と考える粟生執行役員。講演会後の交流会で意気投合、コラボレーションを約束した。

ホワイトカラーの採用につながる企業誘致

 「親の介護で地元に帰らざるを得ない都会在住者が増えている。ところが、帰るとなると、佐賀に適当な職場がない。帰郷して意にそぐわない仕事に就いている人も少なくない」と森本CIO。そういうミスマッチの解消に役立つと考え、パソナテックとのコラボを県庁の企業立地課に持ちかけた。  企業誘致はこれまで工場誘致と“同義語”だったが、最新の工場はオートメーション化でさほどの雇用は望めない。しかも採用の大半はブルーカラーだ。企業誘致本部も、ホワイトカラーの採用につながる企業誘致への方向転換を模索していた。森本CIOの話は“渡りに船”だった。

九州では佐賀県と福岡・糸島の提案が認められる

 一方、中央では2014年10月、有識者でつくる総務省の研究会が、地方のモデル地域を対象にした「ふるさとテレワーク実証事業」の実施を提言した。  実証事業では、(1)地方にサテライトオフィス/テレワークセンターを開設、都市圏の企業が社員を地方に派遣あるいは移住させ、本社と同様の業務をするには何が必要か、(2)その際、地方移住社員への「生活直結サービス」は、どんな内容が考えられるか――を探りテレワークの普及を後押しする。  総務省は今年3月末日から2カ月半、全国から提案を公募した。佐賀県では企業立地課が提案書を作成、鳥栖市を実施地域に挙げた。  インターンシップを派遣する大学は、佐賀大と鳥栖市に隣接する福岡県久留米市の久留米大に協力を求めた。「久留米大に協力してもらうと、佐賀のみならず広範囲からの人材供給をアピールできる」と佐賀県企業誘致本部(農林水産商工本部)の西博人県企業立地課長は話す。  提案書を1カ月足らずで書き上げたという。総務省は7月、提案37件のうち15件を採択。九州では佐賀県と日本テレワーク協会(東京都千代田区)の福岡県糸島市を舞台にした提案が入った。

福岡市の居住者を鳥栖市の企業に呼び込む

佐賀県では企業誘致の優等生と言われている鳥栖市役所。ホワイトカラー採用企業の誘致数を増やすのが課題だ
 鳥栖市は、縦の九州道と横の長崎道・大分道がクロスする「地の利」を生かし、企業誘致では優等生だ。  佐賀県が物流事業者向けに造成した「グリーン・ロジスティクス・パーク鳥栖」は1997年7月の分譲開始から7年5カ月ほどで完売。38社が進出し、約1800人の雇用が生まれた。ところが、市商工振興課の調べでは、そのうち約60%の雇用形態はパートや非正規労働者。しかも同パークの完売後、誘致企業に分譲する土地が底をついた。  半面、鳥栖市の人口の10%は福岡市に通勤し、福岡都市圏の一角を占める。見方を変えると、福岡市の居住者を鳥栖市の企業に呼び込んでも何の不思議もない。パソナテックの進出は朗報だった。  市商工振興課の舟越健策主査は「IT技術者などホワイトカラーの雇用が期待できる。若者の県外流出の歯止めになり、都市圏からのUターンやIターンも望める」と話す。

“さがん(佐賀)”の未来の就業意識を変革する試み

空き店舗は既に佐賀県が賃貸契約を結び確保している
 県は、JR鳥栖駅前から西に延びる本通筋商店街のほぼ中央の空き店舗を、「ふるさとテレワーク」の実証拠点として既に確保。10月には「さがん未来テレワークセンター鳥栖」の看板を上げてオープンする。  移住した5人のパソナテック社員が本社と同様の業務をこなす。また地元から3~5人を新規採用し最大10人ほどのテレワークセンターが誕生する。  さらにテレワークの“予備軍”対策で大学生のインターンシップを受け入れる一方、市民対象の研修会を定期的に開いて、テレワーク希望者のスキルアップの場にも役立てる。  「テレワークセンターを実際に見てもらうと、インターネットを使って在宅で仕事をするクラウドソーシングという働き方が理解してもらえるはず」と舟越主査。地方では馴染みのないテレワークの“啓発施設”としての役割にも期待する。  総務省が採択した15件の実証事業のうち、テレワークと企業誘致を絡める試みは佐賀県だけだ。森本CIOと粟生執行役員の“京都での出逢い”が切っ掛けになった、この試みは“さがん(佐賀の)未来”の就業意識を変革する可能性を秘めた壮大な実験とも言える。 【関連記事】IT時代に脚光浴びる佐賀県 自治体で初めて全庁テレワーク導入(2014年11月12日)
《筑紫 次郎》

特集

コンシューマー アクセスランキング

  1. 話題の「ユーチューバー」は本当に儲かる? その実態と現実を先駆者に聞く

    話題の「ユーチューバー」は本当に儲かる? その実態と現実を先駆者に聞く

  2. <EC売上調査>トップはアマゾン日本、セブン&アイは対抗できるか

    <EC売上調査>トップはアマゾン日本、セブン&アイは対抗できるか

  3. イオンやセブンなど大手小売が連呼する「オムニチャネル」とは何なのか?

    イオンやセブンなど大手小売が連呼する「オムニチャネル」とは何なのか?

  4. 実はすごい「ホームドア」 鉄道の自動運転化には欠かせぬ存在だった

  5. コインランドリー専門展、初の開催…新業態など注目 12月2-4日

アクセスランキングをもっと見る

page top