コメ産地・新潟で農業ITの先進実験、ドコモやベンチャーが活躍 | 東京IT新聞

コメ産地・新潟で農業ITの先進実験、ドコモやベンチャーが活躍

コンシューマー 産業のIT化

新潟市の稲作地帯で、水田に設置したセンサーとクラウド型管理システム、モバイル端末を組み合わせて、水田管理の手法を刷新する「革新的稲作営農管理システム実証プロジェクト」が行われている。“食と農”を柱とする「国家戦略特区」への指定を新たな契機として、農業とITのマッチングを推進する行政と、農業分野の市場開拓を狙うNTTドコモなどの参加企業の方向性が重なった取組みとして、その成果に期待が集まっている。

「食と農」のポテンシャルをITで引き出す

「新潟ニューフードバレー特区」のWebサイト
 新潟市は都道府県にも比肩する大農業都市だ。2013年のデータでは、水田耕地面積と認定農業者数は市町村別で全国1位、都道府県別の集計に照らしても、それぞれ31位と26位に相当する。  米の産出額や食料自給率などの領域でも同等レベルを維持し、食料品の製造出荷額では市町村別で6位、都道府県のランクでも34位(2012年)の力を付けている。  “食と農”の力を基盤に、新潟市では2011年から関連産業や人材の育成、技術開発、農商工連携などを柱とする「新潟ニューフードバレープロジェクト」を進めてきた。  13年には国際的な農業・食品産業の拠点を創る「ニューフードバレー特区」として、“アベノミクス”の成長戦略の一つである「国家戦略特区」(地域や分野を限定して規制緩和や税制上の優遇措置などが行われる)に提案。14年3月に特区への指定が行われた。  特区では、規制緩和措置を活用した農業ベンチャーの創業支援などと並行して、「革新的農業の実践」のコンセプトでいくつかの施策が進められており、その流れの一環として今年5月にスタートしたのが「革新的稲作営農管理システム実証プロジェクト」だ。  参加メンバーは新潟市とNTTドコモに加え、新潟を拠点とするベンチャー企業のウォーターセル(新潟市中央区、長井啓友社長)、東京大学発のベンチャー企業であるベジタリア(東京都渋谷区、小池聡社長)の4者で、今年(2015年)5月14日から来年(2016年)3月31日までの予定で実験が行われている。

水田のデータを自動収集しクラウドに集積

「革新的稲作営農管理システム実証プロジェクト」ではNTTドコモのほか、元ネットエイジ社長だった小池聡氏がトップをつとめるベジタリアと、地元農業ベンチャーのウォーターセルが参画している
 プロジェクトの狙いは、ITの活用による水田管理の刷新だ。  水田にセンサーを設置し、水温や水位などのデータを「クラウド型水田管理システム」に集積。農業従事者がスマートフォンなどの端末から、情報を随時確認できるようにすることで、日々の圃場(ほじょう=田畑)管理の省力化とコスト削減を目指し、収穫量の増加や品質向上に結びつけていく。  各社の役割分担は、NTTドコモが水田センサーと管理システムをつなぐ通信モジュールの提供と通信環境の整備を行う。  一方、農業ベンチャーであるベジタリアはセンサーと管理システム、アプリケーションの開発、ウォーターセルがセンサーの設置やメンテナンス、データ管理、ヘルプデスクの運営を担う。そして新潟市は、企業とJAや農業従事者のマッチング、全体の事業調整を受け持っている。  モニターは市内から13法人と個人9人を選出し、計300台の水田センサーを設置した。事業予算は、センサーや管理システム、保守・管理などで約4000万円。モバイル端末の通信料はモニター側が負担するが、システム整備や使用料、メンテナンスなどにかかる費用は企業側が持つ。  実証実験では企業がコストをすべて負担し、無償でシステム提供と運用を行っているが、将来的には事業としての確立を目指す。

新潟のおいしいコメ作りに重要なのは「水管理」

新潟市の小出係長
 プロジェクトの背景には、米どころ新潟の稲作が抱える大きな課題があった。  新潟市経済部・ニューフードバレー推進課の小出隆嗣(たかつぐ)係長は、「少子高齢化と農業人口の減少が進んだ近年、離農する農家もあって、農業生産法人が圃場を引き継ぐケースが増えているが、生産者の課題は農地の分散にある。特に負担が大きいのは水まわり。コメ作りにおいて水温や水位の調節は非常に重要となっているものの、農地が点在している状況では管理がままならない」と説明する。  越後のコメの味を左右する水管理。新潟市の場合、多いところは100~200枚の水田を見ているという。「圃場の管理は法人に集積されているが、農地の“集約化・団地化”が進んでいない」(小出係長)。  管理農地は市外まで及ぶケースもあり、日々のきめ細かな管理は難しい。法人では班の体制で手分けをしているが、それでも1日ですべて廻ろうとすれば、砂利道を車で行き来して目視する方法に頼るしかない。人件費やガソリン代、圃場から採取する情報の精度といった問題も抱えていた。

IT技術で水田巡回を省力化した効果は絶大

ベジタリアが開発した「Paddy Watch(パディウォッチ)」を活用
 水田に設置されたセンサーには、内部に水温や水位を計測するセンサーや無線通信モジュール、制御ユニット、バッテリーが組み込まれている。  電源と回線の確保が困難な屋外の圃場において、田植えから収穫期までバッテリー稼働で無線通信機能を維持することを前提に設計された。  開発元はベジタリアで、「Paddy Watch(パディウォッチ)」の名でリースされている。  ベジタリアのグループ企業で、今回のプロジェクトではシステムの設置やデータ管理などを担当するウォーターセル・スマート農業事業統括部の藤原拓真副部長は、「水温や水位、気温、湿度のデータを吸い上げて、1時間に1回更新している。農家ではタブレット端末などでこれをチェックし、必要な場所を特定して水補給などの作業を実践できるようになった。現状はトライアルのため機能的にはシンプルであるものの、今後は一定の水位に達したらアラートを出すような機能も実装したい」と話す。  実験の開始後は、同社のスタッフがモニターを頻繁に訪ね、効果の検証と改善点の洗い出しを進めているという。  「現時点での定量的な評価は難しいが、圃場を見回る仕事の省力化に関しては確実に成果を上げている。もう一つは、水のデータが農作物の品質や収穫量に与える影響度を知ること。ヒアリングを重ねてきた結果、役立っていると実感できている」(藤原副部長)。

農業とIT技術のマッチングに力を入れる新潟市

水田の水位や水温、周辺の天気予報などをスマートフォンで確認できる
 2015年夏時点での活動としては、中間報告の意味合いも兼ねて、新潟市を中心にモニターの農家、農業生産法人にアンケートを行い、システムの使い勝手に関する感想や課題などを集めている。  加えて、農業経営の中でITを使って改善できそうな部分はどこか、農業に技術をどう取り入れていきたいのかに関しても意見を募っており、情報を関係者で共有していく。  「今年は“新潟農業のIT化元年”と言えるほど、農業と技術のマッチングに力を入れている」(新潟市・小出係長)。  新潟市の農業が抱える課題は多い。  稲作のほかにも、野菜や果樹、園芸などの分野においても、ITを導入する切り口を探し、農家の負担軽減と農産物の品質向上に貢献していきたいという。

農業を核に地方創生のトップランナーに

新潟市のモデル地区に設置された「水田センサー」
 少子化による農業人口の減少や農地の効率的な活用と管理、農産物の品質向上といったテーマは、新潟市に特化したものではない。多くの地域が抱える課題だ。  こうした社会状況において、農業とITの接点を見いだし、行政と民間企業の力を合わせ、指針を示していくには、新潟は格好のフィールドだろう。  小出係長は「新潟には高い農業生産力と食品製造力、政令指定都市としての一定の規模がある。加えて国家戦略特区に指定されたことで、さまざまな規制が緩和され、新しい施策やビジネスが展開しやすい状況にある」と期待を示す。  「農業を核とした地方創生のトップランナーへ」をビジョンに掲げる新潟市。今年5月に行われた「革新的稲作営農管理システム実証プロジェクト」の協定式の後は、マスメディアをはじめ、複数の省庁や地方自治体、国会議員、農業団体、企業などから多くの問い合わせがあった。  同時期に創設されたアグリビジネスを支援する「総合相談窓口」にも、農業や食品、各種サービス、そしてITに軸足を置く企業、団体からユニークな提案が出され、その動きは加速しているという。 【写真上】「水田センサー」の内部には無線通信モジュール、制御ユニット、バッテリーなどが内蔵されている
《栗林 誠也》

特集

コンシューマー アクセスランキング

  1. 話題の「ユーチューバー」は本当に儲かる? その実態と現実を先駆者に聞く

    話題の「ユーチューバー」は本当に儲かる? その実態と現実を先駆者に聞く

  2. <IT坊主の説話>実は「経営」や「経済」は仏教から生まれた用語だった

    <IT坊主の説話>実は「経営」や「経済」は仏教から生まれた用語だった

  3. 実はすごい「ホームドア」 鉄道の自動運転化には欠かせぬ存在だった

    実はすごい「ホームドア」 鉄道の自動運転化には欠かせぬ存在だった

  4. 子供に超人気!5歳のユーチューバー“がっちゃん”はどうやって生まれたか

  5. <IT坊主の説話>洗脳か納得か「身口意(しんくい)」の意味を知る重要性

アクセスランキングをもっと見る

page top