車の予測制御技術を農業ITに応用、プラントライフシステムズの松岡社長 | 東京IT新聞

車の予測制御技術を農業ITに応用、プラントライフシステムズの松岡社長

コンシューマー 産業のIT化

働き手の高齢化や後継者不足などの問題に直面している日本の農業。昨年設立されたばかりの株式会社プラントライフシステムズ(横浜市港北区)が手がける独自の栽培支援システムは、日本の農家が抱える課題の解決策となるかもしれない。導入コストを抑え、高品質な農作物を育てるシステムの開発を目指す同社独自の技術を聞いた。

光学生体センサが植物の生育状況を正確に計測

プラントライフシステムズのWebサイト
 誰でも、簡単に極上の野菜や果物を育てることができる、そんな未来がやってくるかもしれない。  プラントライフシステムズが開発する栽培支援システムは、植物を栽培する過程で、光学生体センサが植物の生育状況を正確に計測。そのデータをもとに同社独自のプログラムが必要な水分や肥料、光合成量などを導き出して知らせてくれるという仕組みだ。  「このシステムを取り入れることで、プロの農家でなくとも簡単に作物を栽培することができるようになる。日本の農業は経験や勘がものをいう世界。そのため、農家の高齢化が進んでも、後継者が少なく常に人出が足りない状況です。このシステムが問題の解決にも役立つかもしれません」と松岡孝幸社長は話す。

どんな技術が求められているかを探る営業マン時代

「どこでどのような技術が求められているのか、しっかりニーズを見極めることが大事」と話す松岡社長
 日本の農業の課題をとらえた技術が注目を集める同社。松岡社長は「もともと農業とは全く関係のないフィールドで活動していた」という。  東海大学の海洋学部でビックデータ解析などを学び、卒業後はカシオで計算機市場のニーズと量販店のつなぎ役を務めていた。その後は外資系ソフトウェア関連会社に入社、そこで営業職に就いたことが大きな転機となった。  「どんな商品でも相手に買ってもらうのが営業の手腕だと思われがちですが、私はお客様のニーズと商品がマッチしなければ無理に売ったりはしません。肝心なのは、どこでどのような技術が求められているのか、しっかりニーズを見極めること」(同)。  この営業職時代に培った確かな視点が、現在の事業を起こす原点となった。2009年には、自動車などの制御プログラムを応用した開発事業を行う株式会社MTSを創業した。

ベテラン農家の栽培技術をプログラム化

ITを活用することでベテラン農家の技術をプログラム化する
 独立後も農業とは無縁の分野で活動してきた松岡社長だが、あることをきっかけに、農業市場への参入することになった。  「偶然、農家から仕事の依頼を受け、クライアント農場を訪ねる機会があり、トマトの葉を指で触っているのを目にしたんです。『手で触ってトマトが元気かどうか確かめている』というのを聞き、その感覚をプログラム化できないか考えたのがきっかけです」。  参入にあたって重視したのは「中小規模農家の生産性を高めるシステムの提供」だった。  農業のIT化に注目が集まるが、多くのIT関連企業は、精緻に大量生産を行う“工業技術”の考え方で、生産性を上げる技術の開発をすすめている。その内容はビッグデータ解析で農作業の負担を軽減し、より少ない労働力で収穫高を上げるというものだ。  「ただ、さらに収穫量を上げるとなると農業は大型化するしかない。しかし、今の日本の農業の60%は農地面積が2ヘクタール以下の農家で占められている。そうした農家が農地を広げずに生産性を高めるには、より“高い付加価値”の作物を育てることが大事」。

野菜育成のアルゴリズムを作成する

自動車のオートクルーズ(一定速度を維持する機能)システムに使われている予測制御技術を農業分野で応用した
 遺伝子レベルで品種改良しなくとも、水や肥料、光合成量の違いで農作物の味はぐんと変わる。植物を栽培する際の環境を操作することによって、より高品質な野菜や果物が育つのではないか――。  そこで考案したのが、自動車などで使われる予測制御技術と機械学習を農業に応用し、より高品質な作物を生み出すプログラムだった。  自動車のオートクルーズ(一定速度を維持する機能)システムに使われている予測制御技術だと、「前方車との距離を等間隔に保つ」というプログラムを実現するためには、何秒後にどれほどの強さでアクセルを踏むべきか、状況に応じて必要なアクションを予測し実行する。  同じように「3カ月後に糖度7で大きさ8センチのトマトに成長」といったプログラムをトマト栽培に適用させると、目標を実現させるために必要な環境が導き出される、というものだ。  同社社屋の一室では実際に野菜を栽培し、プログラムの作成に必要なデータを採取している。  「このデータをもとに、野菜育成プログラム(アルゴリズム)を作成しています。熟練農家の栽培技術はプログラム上で関数に置き換えられ、『水を控える』『外気を入れる』などの指示は計算式で導き出される。プログラムに沿って栽培することで、高品質な野菜や果物を確実に収穫できるようになります」。  たとえば、通常は4~6ほどの糖度のトマトを「糖度8」のプログラムで収穫できたら、商品の売値も上がり収入は1.2倍から1.4倍にもなる。付加価値の高い作物を育てることは、生産性を上げることにほかならない。  「私たちのシステムは、今までの農家の農場環境や設備を変えることなく、追加することで生産性を向上させるシステム。どのような農家にも対応することができる」。

センサなどのコスト削減で、中小農家が導入できる

オフィス内に「野菜工場」を手作りし、日々実験を行っている
 中小規模の農家にシステムを提供するにあたり、同社が重視したのは、徹底的な導入コストの削減だ。  「ビックデータを解析するような農業ITだと、大量のデータを収集して解析する必要があるため、通信コストが膨大になる。私たちの提供するシステムはあらかじめ設定されたプログラムに応じて環境を制御していくので、通信コストがほとんどいらない」。  さらに、植物の状態を察知する生体センサも、従来のシステム機器だと植物の周りに様々なセンサを取り付ける必要があり、多額の設備投資費用がかかっていた。そこで、同社は1つのセンサに機能を集約させ、従来価格よりも10分の1ほどの値下げを実現した。

通信インフラが整わない途上国での活用も

 中小規模の農家の需要が見込まれる同社のシステムは、他企業からも注目を集め、今年5月には大手電気機器メーカーのオムロンから出資を受けるまでになった。  「私たちの事業は、作物のデータをとってプログラムを作成することと、生体センサの試作するところまで。製品のブランディングや量産化はオムロンさんをはじめとする他企業が担ってくれます」。  同社のシステムは来夏頃にも市場に投入される予定だ。安価で農業の生産性を上げる仕組みは、通信インフラが整っていない途上国からの需要も見込まれる。  「日本の農業が世界を牽引することもできる」と胸を張る。プラントライフシステムズでは、今後も多くの企業と協業しつつ農業の可能性を広げていく考えだ。 
松岡孝幸(まつおか・たかゆき) 株式会社プラントライフシステムズ 代表取締役 国立大学からの転籍で東海大学海洋学部を卒業後、カシオ計算機に入社。その後、PTCジャパンやシーメンスPLM、マスワークスにて自動車業界の技術開発に携わった後、2009年に株式会社MTSで起業。14年にはMTSとは別にプラントライフシステムズを設立
《松原 麻依》

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