佐賀を農業ビッグデータで世界一に、オプティムと佐賀大が連携 | 東京IT新聞

佐賀を農業ビッグデータで世界一に、オプティムと佐賀大が連携

コンシューマー 産業のIT化

佐賀大学発のベンチャーであるオプティム(東京都港区)と、佐賀大農学部、佐賀県の生産振興部が今月(8月)27日に、「ITを使った“楽しく、かっこよく、稼げる農業”」の実現を目標に、三者連携協定を結んだ。今後、2~3年をメドに佐賀県内に県や佐賀大が所有する10カ所の農場で栽培する農作物などを通して、小型無人飛行機「ドローン」の活用を中心に様々なデータを集積させ、佐賀を世界一の農業ビッグデータ地域にするという。

連携は佐賀大農学部創立60周年式典がきっかけ

オプティムと佐賀大、県の三者による役割のイメージ
 農業のIT化は、移動体通信網と通信機器の発達が導入の火付け役になり、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉が進むにつれ、全国各地で活用事例が報告されている。  佐賀県は「佐賀平野」に代表される九州有数の穀倉地帯。コメや二条大麦、大豆、タマネギ、ハウスミカン、嬉野茶、佐賀牛などの生産県として知られる。ただ働き手の高齢化と担い手不足という農業共通の悩みを抱え、解決策を模索している。  三者連携のきっかけは今年(2015年)5月に開かれた佐賀大農学部創立60周年記念式典だった。  講師に招かれた農学部卒業生でオプティム創業者の菅谷俊二社長と渡辺啓一・農学部長が、佐賀を舞台にした農業のIT化に取り組むことで一致。県の生産振興部の協力を得て、7月から県の農業関係試験場と大学の付属農場を使って小型無人飛行機「ドローン」による圃場(ほじょう=田畑)の空撮やウェアラブル端末を装着した職員に農作業をやってもらうなどして、IT技術が導入可能な農業分野を探っている。

世界初のドローン対応ビッグデータ解析プラットフォーム

農業へのIT活用について熱っぽく語る菅谷社長。来年4月から母校の客員教授として教鞭をとることが予定されている。
 現時点で最も進んでいるのは、ドローンで空撮した圃場の画像と、圃場に設置したセンサーによる温度や湿度、日射量などの測定データを、オプティムが世界で初めて開発したというドローン対応のビッグデータ解析プラットフォーム「SkySight(スカイサイト)」に集積させて管理、分析している。  菅谷社長は、ドローンとスカイサイトを組み合わせた農業応用の一例を挙げて、次のように説明した。  「ドローンは、これまでも圃場の空撮などに使われてきたが、撮影後に空撮した画像の使い方が分からなかった。『スカイサイト』は、画像をテキストデータに変換できる。また空撮画像をR(赤)G(緑)B(青)で解析すると、害虫被害に遭った圃場の場所が分かる。その場所に絞ってピンポイントで農薬を散布すると、農薬の無駄がなくなり、安心、安全な食べ物を消費者に提供できる」。  スカイサイトは、IoT(モノのインターネット)やウェアラブル端末から得られるデジタルビッグデータも管理して解析や遠隔制御に役立てるという。  畜産では、赤外線サーマルカメラを用いて、牛の発情や出産、病気の発見などに役立てることが想定されている。

“稼げる学部”への転換狙う佐賀大農学部

オプティムの遠隔作業専用スマートグラス「Remote Action」運用イメージ
 一方、佐賀大農学部は知的財産権の取得や管理に力を入れ、“稼げる学部”への転換を狙う。オプティムは情報通信の特許資産規模1件当たりで国内トップ(パテント・リザルト社調べ=2012年実績)だ。特許出願のノウハウ取得など佐賀大農学部のメリットは少なくない。  ドローンで空撮した画像から作物の葉に付着した害虫を特定しやすくする新技術を開発、双方が連名で既に最初の特許を出願している。  佐賀大に課せられた一番の役割は、佐賀農業のIT化をリードして支える人材の育成だ。渡辺啓一農学部長は「菅谷社長を2016年4月から農学部の特任教授に招聘する。2~3年生を対象にした知財管理などを学ぶインターフェイス科目を担当してもらうことを考えている」と話す。

IT農業の行方を左右するのは県の生産振興部

三者連携協定書を披露する左から菅谷俊二・オプティム社長、渡辺啓一・佐賀大農学部長、古賀俊光・佐賀県生産振興部長
 そして三者の中では県生産振興部の舵取りが、佐賀のIT農業の行方を左右すると言っても過言ではない。  佐賀県は今年1月の知事選で自民党推薦候補が、告示1週間前に出馬表明した現職の前総務省官僚に敗れた。  農業団体が、自民党と袂(たもと)を分かち、現職を支持したことが大きい。農業団体が佐賀県政に及ぼす影響は、今回の知事選に限った話ではない。前自治官僚や前厚生官僚、元県農林部長ら5人が争った1979(昭和54)年4月の知事選でも農業団体が支援した元農林部長が当選、3期12年間にわたり、知事のイスに座った。  その農業団体や市町、そして現場の農家と頻繁に接する県庁の農業関係組織と、これまで農家とは対極の存在とみられていたIT企業との「距離感」は小さくない。  高度経済成長時代以来、働き手が減っていった農家は、人手に代わる高価な農機具を次々と借金で導入し“機械化貧乏”に陥った苦い経験がある。

不可欠なのは農家の理解を得やすい工夫と啓発

オプティムが開発したドローン対応のビッグデータ解析プラットフォーム 「SkySight(スカイサイト)」で解析した空撮画像。圃場の薄い緑色の部分が害虫被害に遭っているという
 「今後2~3年は試験場レベルでの新技術開発になるだろう。農家にIT技術を駆使した農業を普及させるのは容易ではない。IT技術が実用可能かどうかをまず篩い分け、実用可能な技術から順次、農家に役立てていただく」。  三者連携協定の調印式に出席した県生産振興部の古賀俊光部長は、言葉を選びながらそう話した。  佐賀県に限らず、IT化の波が農家に迫っているのは間違いない。先導的な農家はIT技術を採り入れ、農業のビジネス化に成功している。ただ大半の農家にITはまだ縁遠い存在だ。佐賀が、本当に世界一のIT農業地域を目指すなら、農家の理解を得易い工夫と粘り強い啓発が不可欠となろう。 【写真上】ドローン対応ビッグデータ解析プラットフォーム「SkySight」での活用イメージ(オプティムのニュースリリースより)
《筑紫 次郎》

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