Twitterで話題の「岩下の新生姜(しょうが)」、熱烈ファン獲得への道 | 東京IT新聞

Twitterで話題の「岩下の新生姜(しょうが)」、熱烈ファン獲得への道

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ITマーケティングの成功例をひもとく連載の3回目は「岩下の新生姜(しょうが)」で知られる岩下食品株式会社(栃木県栃木市)。同社の岩下和了社長はTwitter上で大きな話題となり、これを契機に人気バンドのライブで壇上に招かれたり、さらには「岩下の新生姜ミュージアム」までつくってしまったりした。岩下社長はどんな軌跡を描き、ファンから愛されるようになったのか。

Twitterの特徴は「ファンを検索できること」

1987年に発売した「岩下の新生姜(しんしょうが)」の知名度が高い
 岩下食品は堅実ではあるものの、一般的には“地味な食品メーカー”とも見られている。  代表的な商品は「らっきょう漬け」と「生姜漬け」で、同ジャンルではシェア日本一を誇る。  本社は栃木県栃木市にあり、知名度が高い商品は、先代社長の岩下邦夫氏が1987年に発売した「岩下の新生姜」。絶妙な食感に仕上げるため、生姜が上に伸びると、周囲に土をかける作業を3度行うなど手間をかけるという。現社長の岩下和了氏が話す。  「(先代社長の)父はよく『利は元にあり』と言っていました。商品の善し悪しは原料で決まってしまうから、徹底的にこだわれ、という意味です」  Twitterでの人気化をもたらしたのは、岩下社長が、パソコン通信時代からネットで人と交わることが好きだったからだ。  パソコン通信では一世を風靡したニフティサーブの「フォーラム」に参加し、インターネット時代になってからは「mixi(ミクシィ)」でもよく遊んだ。Twitterはアカウントだけ取得し、たまに見る程度だったが、2011年の東日本大震災後に興味を持ったという。  「タイムラインからいち早く情報が流れてくるだけでなく、被災地などの名を入れて検索もできた。Twitterは、多数の人間のつぶやきをやりとりするだけでなく、それを検索できることが特徴なのだと知り、強く惹かれたんです」。

ユーザからの投稿を「お気に入り」に登録

岩下食品の岩下和了社長
 その後、岩下社長が「自社商品がどうつぶやかれているのか?」と気になり始めたのは自然の成り行きだった。  調べてみると、1日10件くらい「おいしい」「好き」「食べた」などとつぶやかれていた。ここで岩下社長が「社長としてぜひお礼を言いたい!」と考え「これからもよろしくお願いします!」などと“リプライ”(特定のユーザ名[@…]から始まるツイート。投稿は、リプライを送った側と、送られた側と、両方をフォローしているユーザのタイムラインに表示される)をかけたことが、大きなきっかけとなった。  岩下社長は「少し勇気が必要でしたね」と笑うが、ユーザの反応はおおむね好意的だった。  これをきっかけに、同社長はTwitterを「メーカーとユーザの間をほどよく埋めるツール」として活用し始めた。  「ユーザが弊社のお客様相談室に連絡下さり、ご意見を口にされるとなると、よほど気になることがあった方に限られると思うんです。しかも、わざわざ『好きです』とご連絡を下さる方はなかなかいらっしゃいません。商品へのお褒めの言葉が日々大量に流れてくるのがうれしくて、ただそれだけで、Twitterを続けたんです」。

お互いに細かいことは気にしない文化にも好感

岩下社長のTwitterアカウントは「shinshoga(しんしょうが)」
 Twitter上ではお互いに細かいことは気にしない文化も気に入った。投稿は140文字、お礼も「ありがとうございます!」などと一言でもいい。岩下氏は「私がブロックされてしまう場合もありますよ。商用のアカウントと思われてしまうんでしょう」と苦笑するが「深くは気にしません」とTwitter独特のコミュニケーションを理解する。  またTwitterの特徴である「会話がどんどん流れて行き、過去を振り返りにくいこと」を見抜き、ユーザからの投稿を「お気に入り」に登録、いつでも見られるようにしておいた。自分のつぶやきがブログ形式で保存できる「twilog(ツイログ)」や、「お気に入り」を管理する「favolog(ファボログ)」など、無料アプリを使いこなし、ユーザとのやりとりを一過性で終わらせなかった。  「昔、野口悠紀雄さんの『「超」整理法~情報検索と発想の新システム 』(中公新書)で読んだのですが、パソコンは“計算が速い”だけでなく“検索ができる”ことが便利な理由なのです。私は元々几帳面なので、無意識のうちに、弊社商品がTwitter上でどう評価されているか、つぶやきが消えた後でも検索可能な状態にしていた、というわけです」。

人気ロックバンドの公演で壇上に呼ばれる

話題となりそうなユニークな新商品も多い
 その後、同社長の活動は話題になっていく。“新生姜”についてつぶやけば、社長がお礼をしてくれる、と評判になったのだ。この取材中もたまにTwitterをチェックし、投稿をよく“拾う”ほどの岩下社長はユーザから愛され岩下の新生姜が食卓に上る度に、つぶやきを社長が拾うことを見越したように、多数の投稿が見られるようになった。  また、Twitterユーザーのなかには新生姜の食べ方や、新生姜のパッケージに入っている漬け汁を使った料理などを提案してくれる人もいた。彼は一件一件「お気に入り」に入れていたため、気付けば、商品に関する28万ツイートものデータベースができていた。彼は新たなメニューを『We Love 岩下の新生姜~ツイッターから生まれたFANBOOK』(マガジンハウス)という書籍にまとめた。  同時に、岩下社長が強烈な音楽ファンであることも、彼の活動を加速させた。芸能人にも「岩下の新生姜が好き」と発信してくれる人がいて、岩下社長は関係を持った相手がライブなど行うと律儀に足を運んだ。  次第に芸能人も新生姜だけでなく岩下社長のファンになり、人気のロックバンド「マキシマムザホルモン」のライブに行くと、壇上から「新生姜の社長、来てるんでしょ!?」と声をかけられた。岩下氏が手を振ると、彼はライブ客たちに胴上げされ、壇上に送り込まれ、バンドメンバーが「岩下の!」と言うと、ファンが「新生姜!」と言ってくれる“事件”さえあった。

Twitterのファンを意識したミュージアムを建てる

 
今年(2015年)6月20日にオープンした「岩下の新生姜ミュージアム」
そして、事態が大きく動いたのは、今年(2015年)の6月だった。岩下氏はなんと、「岩下の新生姜ミュージアム」を建て、公開してしまったのだ。  先代社長は地域貢献のため美術館を運営していたが、他界後は建物が宙に浮き、現社長はこれを利用したのだ。  まず、新生姜ミュージアムで販売するペンライトについてツイートすると、「どう見ても“アレ”にしか見えないペンライト」として話題になった。そして、ミュージアムをオープンさせると、ファンが広め、写真などをアップしてくれた。  ミュージアムには「新生姜(ジンジャー)神社」があり(生姜を食べると体が温まるから)夫婦仲や恋仲が熱々になるご利益があるそうだ。ほか、巨大な新生姜のパッケージがあって、中に入り、生姜漬けになった気分で写真を撮影できる。食べ物も生姜入りスコーン、生姜入りのパフェ、さらにはこれぞ本物! のジンジャーエールもある。面白い画像が撮影できる、まさにTwitterのファンを意識したつくり、とも言えるだろう。  Twitterは独自の空間だ。面白いことは一気に拡散され、力を持つ。岩下社長は「テレビ局も取材にいらしてくれましたが、お客様に来館のきっかけを聞くと『Twitterで見た』という方が圧倒的に多かったですね」と話す。

Twiiterは「好きで、嬉しくて、楽しくてやっている」

Twitterで話題となった新生姜ミュージアムで販売する「ペンライト」
 ただ、Twitterには特徴がある。商業利用だと思われると、ユーザはそっぽを向き、フォロワーも閑古鳥になってしまう。CMが見たくてテレビをつける人はほとんどいないのと同様だ。では、その違いはどこにあったのか?  岩下社長が話す。  「私は『新生姜のファンのファン』です。好きだと言ってくださる方に少しでも恩返しをしたい。それには、楽しんでいただくこと。私も新生姜が大好きだから、その共通項を持った方々と、楽しみが共有できるのだと思います。ファンの立場で、面白いことを、いっしょに楽しめるようにと、いつも考えています。それが、時に驚くような新しい展開に次々つながっている気がします」。  Twitterは、いわば「メディア」なのだ。活用すれば、テレビでの告知よりも高い効果を生むこともある。だが「やらなければならないからやっている」アカウントは、誰からも見向きもされない。ファンとの、140文字未満の交流を楽しみ、夢中になったからこそ、ファンは岩下氏により大きなものを返した、と言えるだろう。
《夏目 幸明(なつめゆきあき)》

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