バーチャルリアリティーで歴史体感、アスカラボ・角田社長に聞く | 東京IT新聞

バーチャルリアリティーで歴史体感、アスカラボ・角田社長に聞く

エンタープライズ ベンチャー/スタートアップ

現実の風景にコンピュータが作り出した情報を重ね合わせて見ることができるのが「AR」(Augmented Reality=拡張現実)。株式会社アスカラボ(東京都目黒区)は高度なCG技術を駆使し、遺跡や当時の人々の様子を再現、現実の世界と昔の風景とを融合させるシステムを開発した。仮想現実はどこまでリアルに近づけるのか――。角田哲也社長にバーチャルリアリティーの可能性を聞いた。

▼高度な合成技術で遺跡や昔の人々の生活を再現

 現実世界に、コンピュータでテキストや図形などのコンテンツを加えることによって、目で見ること以上の情報を読み取ることができるのが「拡張現実」と呼ばれるAR(Augmented Reality)。

 近年は、スマートフォンをかざすと画面に目前の景色と周辺情報が表示されるアプリや、実際に走行している道路の映像と道路情報が同時にモニターに映るカーナビ機能など、技術の広まりとともに普及が進んでいる。

 そのARよりさらに高度なCG合成技術を使い、あたかも仮想物体が現実の世界に出現したかのように表現できるのが「MR」(Mixed Reality=複合現実感)だ。

同社はその技術を駆使して、遺跡や当時の人々の様子を復元するシステムを開発している。

 「周りを見渡すと、昔の世界に入り込めるようなシステムを作り出すことが目標」という角田社長。

 「システムの提供先は遺跡を保有する自治体や観光業者です。観光客や地域の学生にMRで再現した風景を見てもらっています」。

 例えば、江戸時代に交通網の要であった日本橋でMR機能が搭載されたメガネ(ヘッドマウントディスプレイ)をかけると、着物を着た人々が行き交い、橋向こうには江戸天守閣を見渡すことができる。本物の日本橋に江戸時代の風景が溶け込んでいるような、なんとも不思議な感覚だ。

▼東大大学院での研究プロジェクトが企業の契機

 通常のARより仮想現実の割合が多く、圧倒的な没入感が特徴の同社システム。もととなる技術は角田社長が東京大学の大学院生だったときに確立されたものだという。

 「大学院の研究室に入る前は、工学部の建築学科の学部生でした。ちょうど私が大学に入学した1990年代後半ごろは、CGソフトをはじめとするコンピュータソフトの使い方なども科目に導入され始めた時期。その技術に触れていくうちに、昔ながらの図面で建築をつくるのもいいけど、CGやバーチャルリアリティーなどの分野でも面白いことができるのではないかと思い、大学院で研究を続けることにしました」。

 研究室ではバーチャルリアリティー分野の中でも、文化財の復元や保護を目的とした研究を進めていた。アスカラボを設立するに至ったのも、社名の由来でもある奈良県・明日香(あすか)村でのプロジェクトがきっかけだった。

 「明日香村は7世紀に飛鳥京があったといわれる地域ですが、現存しているのは古墳の石室や五重塔の基壇ぐらい。そこで、当時の建物などをCGで再現するプロジェクトを研究室で進めていました。当初の目的は当時の風景や建物をデジタルアーカイブすることだったのですが、そのCGを一般のお客さんにも見てもらおうと提案したのが始まりです」。

 自治体の村長にかけあい、当時の飛鳥京の様子を再現したアプリを提供。中学生の歴史学習に使われるなど好評を得た。空き地や田んぼに広がる飛鳥京の風景。単に建物を出現させるだけでなく、現実の天気や時間帯で応じて、仮想物体の明るさや影が変化するのが特徴だ。そのCGのコンテンツも自前で作成したものだという。

▼お客さんの反応が研究のモチベーションに

 これまでの経験を応用したプロブラムが評判となり、08年に当時の指導教官と研究室の先輩とともにアスカラボを設立。大学院での研究がそのまま事業化される形で、現在に至っている。

 東京大学は学内ベンチャーへの取り組みに積極的で、起業した学生たちにビル一棟を提供しているキャンパスもある。角田社長も3カ月前までは東大のキャンパス内にオフィスを構えていた。学生時代から“地続き”で継続してきた事業だが、その魅力を角田さんはこう語る。

 「理系の研究員はプログラムの作成など、実験室でコツコツ作業を積み上げていくことが多い。私たちの研究ももちろんそうですが、実証実験の時などは一般のお客さんにCGを見ていただくことでダイレクトな反応が得られます。それがモチベーションにつながりました」。

▼五輪の招致活動でも活躍、各分野で応用されるMR

 百聞は一見にしかずと言うが、これまで本や映画などから得ていた知識も、仮想現実を通して体験することでより印象深くなる。

 「歴史というのは人類が普遍的に興味を持つ分野ですが、当時の様子を想像して楽しむには、ある程度知識がないと難しい。CG技術を使えば予備知識がなくとも、歴史を体感することができます」。

 仮想現実を使ってさまざまな情報を付け足すことで、眼の前の風景はより付加価値の高いものとなる。MR技術は汎用性が高く、遺跡の復元の他にもさまざまな分野で活用することができるという。

 「現在は観光分野に力を入れていますが、MRの活用フィールドはさらに広げられると思います。たとえば、未来の建物を出現させることも可能なので建設業界にも応用できますし、MRを使った広告も需要があるのではないかと思います」。

 実際、2009年のオリンピック招致活動では、建設予定のスタジアムを再現して、東京の魅力を視察団にアピールした。また、今年に入ってからは民間企業と提携し、MR技術を応用した広告も手がけている。

▼端末の進化で拡張現実の世界がより身近に

 様々な分野に広がりつつあるMRだが、「まだまだ開発の余地はある」と、角田社長は言う。

 「ハードウェアの進化に合わせて、そこに搭載するMRシステムも開発していかなくてはいけません。特にここ2~3年の間に『グーグルグラス』が注目を集めるようになったので、このようなウェアラブル機器に対応していきたいですね」。

 iPhoneの登場でARアプリが普及したように、ヘッドマウントディスプレイなどの端末が進化することでバーチャルリアリティーの世界は、より身近なものとなるだろう。

 「近い将来、メガネをかけるだけで戦国時代の合戦の様子を再現されたり、競技場に行かなくとも部屋の中でスポーツ観戦ができるようになったりするかもしれません」。

 “見たことのない景色を体験してみたい”。それは多くの人が持っている欲求だ。アスカラボのMRは今後、私たちにどんな世界を見せてくれるのだろうか。

【プロフィル】
角田哲也(かくた・てつや)氏
株式会社アスカラボ
京都大学工学部建築学科卒、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了、博士(学際情報学)。MR(Mixed Reality)の研究開発に携わり、バーチャル飛鳥京プロジェクトの企画制作に取り組む。研究成果の実用化を目指し2008年6月にアスカラボを設立、代表取締役に
《松原 麻依》

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