大手を相手にシェア2割とった 中小企業発ヒット商品 | 東京IT新聞

大手を相手にシェア2割とった 中小企業発ヒット商品

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 自覚症状が無いことから“サイレントキラー”と呼ばれ、生活習慣病の中でも特に危険視されている糖尿病。その診断で開業医から注目されている装置がある。群馬県藤岡市に生産拠点を持つ株式会社サカエの「A1c iGear」。2015年度ものづくり日本大賞では、“6分で結果がわかる国内初の小型糖尿病分析装置と検査試薬の自社開発”で特別賞を受賞した。

 しかし、代表取締役社長を務める松本弘一氏によると、同社が医療機器を手掛けるようになったのは、ここ20年ぐらいの話だという。その中で、自社ブランド製品として初めて世に送り出されたのが、「A1c iGear」シリーズの初代モデル「A1c GEAR」だった。

■リスクを恐れず新事業に挑戦する

 1952年に創業した株式会社サカエは、かつて大手家電メーカーの下請けが90%を占める典型的な下請け会社だったという。しかし、1979年に創業者が急逝すると、会社は息子の弘一氏に引き継がれることになった。

「その頃から、このまま下請けを続けていたのでは一生浮かばれないと思っていました。誰もが真似できないものを、自社ブランドで広めていく。それが二代目社長としての役目だと、当時から考えていたわけです」

 その後、取引のあった大手家電メーカーから、ヒーター機器の部門を移管したいという話が持ち込まれてきた。これを手始めに自社事業として勝負していけるかもしれない。そう考えた松本氏は、社の生産体制をヒーター機器事業に専念するよう決意する。会社の組織を改革し、生産ラインの引き直しを行い、徐々にではあるが下請け会社からの脱却を図っていった。

 こうして、サカエは自社製品の開発を積極的に進める企業へとシフトしていく。しかし、その中心となっていたのはOEMビジネスで、未だ自社ブランドを世に送り出したいという松本氏の夢からは遠かった。


 何か新しいビジネスのチャンスはないか。日ごろからそう考えていた松本氏は、テレビであるガス爆発の事故現場を目の当たりにする。当時はガスやプロパンが原因の事故が多く、たびたびニュースで取り上げられていた。自社で扱うような電気ヒーターであれば、事故を防げるのに……。いつしか松本氏は「どんな形でも良いから、我々のビジネスを通じて人が幸せに長い人生を送れる事の手伝いができないか」と考えるようになる。

 そんな、松本氏がたまたま縁があって訪問したのが、ある国内診断薬メーカーだった。そのメーカーではちょうど糖尿病関連の装置開発を計画しており、サカエは共同開発という形でその製品化を手掛けることになる。やがて完成した装置は今でも多くの病院や検査センターで使われている、業界でも注目されるヒット商品となった。

■グローバル企業を相手に性能で勝負する

 OEMでの開発製造を通じて、医療機器業界へと進出したサカエ。そんな彼らのもとに、糖尿病の検査装置について共同開発の話が持ちかけられる。「某世界メーカーの特許が間もなく切れる。それに合わせて、国内に向けて高精度な装置を作らないか」と。

 当時そのマーケットは、ある世界的なメーカーの製品が独占している状態だった。しかし、市場を調査してみると、測定精度を向上させ、もっと取り扱いを手軽にすれば、新規参入のチャンスは十分にあると思われた。

「糖尿病検査について世界を見渡してみると 細かい検査結果値にこだわらない国も多く、トップシェアのメーカーもそれに甘んじているのが実情でした。ただ、我々には良いものは必ず勝つという信念がありましたので。まずは高い精度を要求される日本のマーケットに向けて、開発を進めることになったんです」


 しかし、開発予定期間の2年が過ぎても、目標とする精度は実現できなかった。この頃になると試薬チームと機器の開発チームで、互いにギクシャクする光景も見受けられるようになったという。さらに1年が経ったある日、共同開発先の会社から事業撤退の話が持ち上がった。

「だったら、うちで全部やってやろうじゃないかと。まったく経験のない診断薬の開発もサカエで手掛けることにしたのです。社内からは無謀との声も上がりましたが、ここは私の独断で突き進むことにしました。幸い共同開発先の会社から熱心な研究員が転籍してくれたので、機器と試薬の開発が社内で1本化できるようになったんです。それで一気に開発が加速しましたね」

 分析装置で精度を出すために必要な条件は大きく2つあり、そのひとつが検体と試薬の反応温度を±0.1度に管理すること。これには同社が長年培ってきたヒーター機器のノウハウが生きた。当時、サカエはヒーター業界のリーディングカンパニーとしての地位を確立しており、半導体メーカーなどから高精度な温度コントロールの要求に応えていたという。

 一方、高精度な測定に不可欠とされる、血液の定量採取については、キャピラリィの改良を進めることになった。これは、長さ数センチの円錐型をした器具で、先端に空いた極小の穴から、毛細管現象を利用して血液を採取する。その量は血の状態や採取する人間の技量に関わらず、毎回きちんと1マイクロリットルである必要があった。この精度を出すためには、開発過程の中でもかなりの苦労があったという。


■自社ブランド製品で新規市場を開拓する

 2009年6月、グリコヘモグロビン分析装置「A1c GEAR」と、その専用試薬「メディダスHbA1c」は 開発期間5年をかけて、ついに世の中へと送り出された。指先から採取したごく微量な全血から測定ができ、装置にセットしたらボタンを押すだけという手軽さ。それに加えて3検体の連続測定を可能にしたことが、医療従事者から大きく評価された。

 従来の装置では採血後の血液の凝固を防ぐため、すぐに分析を行う必要があった。そのため、分析が終わるまでは次の採血ができず、患者を待たせるケースもあったという。しかし、「A1c GEAR」では採血後、8時間以内であれば分析が可能となっている。

「でも、やっぱり『A1c GEAR』の優れたところは、採血の6分後には患者さんのその時の体調に関係なく結果が分かり、医師からその場で指導を受けられることなんです。そうして、以前の診断よりも結果が良くなっていれば、食生活の改善や運動を続けようという気になれます」

 発売から5年でA1c GEARは日本市場における2割のシェアを獲得。2014年には後継モデルとなる「A1c iGear」を発売し、カラータッチパネルや電子カルテなどにも対応した。来年にはアメリカへの進出も予定しており、グローバルに展開していく計画だという。

「日本では糖尿病患者が1000万人いて、その予備軍がやはり同数いると言われています。しかし、実際に治療している患者さんは200万人しかいません。さらに言えば、現在A1c Gearシリーズの稼働台数は1700台ですが、国内には小児科などを入れて6万を超える開業医があります。こうした場所に製品を普及させ、皆さんに関心を持っていただき、糖尿病の早期発見や治療に貢献すること。それが我々の使命だと考えています」

 糖尿病患者は世界的に増え続けており、2050年には全世界で5億人を超えると言われている。国内でも糖尿病の患者が増加傾向にあるだけに、微量な血液で短時間検査ができる装置は大きな需要を秘めていそうだ。

【地方発ヒット商品の裏側】大手外資を相手にシェア2割をとる群馬の中小企業

《丸田鉄平/H14》

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