<IT坊主の説話:最終回>実は「可もなく不可もなし」は難しい | 東京IT新聞

<IT坊主の説話:最終回>実は「可もなく不可もなし」は難しい

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IT界と仏教界を経験した現役僧侶の"IT坊主"こと牧野豊潤(ほうじゅん)氏がITビジネスで役立つ「説話」を連載。世の中でもっとも新しい業界であるITの世界に、2500年の歴史を持つ仏教の教えは通用するのでしょうか――。最終回となる第24回は、無可無不可(かもなくふかもなし)という言葉の深い意味を考えていきましょう。

▼無可無不可(かもなくふかもなし)とは

"可もなく不可もなし"は、現代では「良くもなく、また悪くもない。まあ普通かなあ」などという意味で使われるのが一般的ですが、これは孔子(こうし=儒教の祖、学者であり思想家)の「論語」が出典で、「自分の考えは臨機応変。世の状況や大義を見極めながら判断する。いろんな可能性を持って対処していく」という意思表示の言葉です。

「最初から決めつけずに、中道(執着を離れ、正しい判断をし、行動すること)で向き合う」という意味合いを含んだ奥深い言葉で、チャレンジしてみる前から、「あれは良い、これは悪いと決め付けたり、根拠無き評論は意味が無い」などという戒めの意味もあります。このようなことから、禅の精神を表す言葉の一つとして用いられています。

▼新たなことに挑戦時、先入観や思い込みは持たない

新しい事へチャレンジするときには不安も生まれます。一般的に「私には無理」「自分には向いてない」「どうせうまくいくわけがない」「やるだけムダ」などと思うことが往々にしてあります。いわゆる“ネガティブシンキング”です。

やりたくない自分に都合の良い物差しと、思い込みや憶測でレッテルを貼るためでしょう。やってもみないことを、先入観で決めつけてしまうのはもったいない。せっかくのチャンスを自分から放棄してしまうことにもなります。

最初から悲観的にならず、思い切って挑戦してみることも大切です。自分にはできるはずがないなどと決め付けず、自分の未来への可能性を信じて行なうことが大切です。

仮に上手くいかなくてもチャレンジするなかで、新たな目標などが見つかるかもしれません。大切なのはポジティブな発想でアグレッシブに活動することです。そのためには、先入観や思い込みは持たないニュートラルな状態であることが大切です。

▼「普通である」ということはかなり難しい

「可もなく不可もなく」過ごすには、"マニュアルどおりに行なっていればいいだろう"などという考えは甘い!と言わざるを得ません。

ただし、マニュアル化することは大切なこと。仕事(作業)の標準化が出来、一定の品質を保証する指針になります。

経営者目線で考えると、従業者を広く集められるというメリットにもなります。

しかし、マニュアル通りでは仕事にならない分野や事柄がたくさんあります。ある程度の基本や基準、心構え、考え方などはマニュアル化できても、そのままでは具体的に行動できない(成果が出ない)範疇のことである場合には、経験や訓練・修業(先輩や上司などから吸収する)などで覚えたり、それなりの能力や感性を要求されたりもします。

たとえば、管理者の業務はマニュアルどおりでは仕事を全うできるはずもなく、状況判断による対応が要求されることが多々あります。人としての対応力までマニュアル化できるはずもありません。つまり、何が起きるか(発生するか)わからないリスクを全て網羅したマニュアルは作成不可能です。

管理者には、状況に応じた臨機応変な対応を迫られる場面が多くあります。マニュアル化できることは想定内(通常業務内)の事柄として練習や訓練が可能で、おおむねIT化できます。

しかし、マニュアルからはみ出す部分への対応が人としての真価を問われるところであり、それが日常(普通)だと認識する事が大切で重要な仕事なのです。

このように考えると 「可もなく不可もなし」を全うする事は簡単ではありません。普通である事は大変なことなのです。

▼奥底にしまってある経験や体験の部品は宝物

物事はマニュアルどおりにいかない事がたくさんあります。人間の智慧が必要です。

立場にもよりますが、社会生活(特にビジネス)においては適切で臨機応変な状況判断力、素早い対応力などを期待されることが多々あります。

しかしながら、生まれながらにしてそのような能力が身についている人はいません。いくら頭の中で考えても、体験や経験に勝るものはありません。

イメージトレーニングという方法もありますが、しょせんは「イメージング」です。思いがけないことが発生することを想定して、日頃から予習・練習・訓練を行なっておくことは重要で、貴重な体験(経験)になります。

場数を踏んだ経験は大きな力になります。チャレンジに失敗は付きものと考え、失敗では落ち込まない。失敗をバネに次に生かす。自分で判断し行動できるようになるまで経験を重ねる。そして経験の引き出しは多いほうがいいのです。しまってある経験や体験の部品は宝物です。

▼臨機応変に世の状況や大義を見極めながら判断を

「中道で向き合う」「可もなく不可もなし」と言われても、チャレンジ精神旺盛な人にはじれったく感じるでしょう。

しかも、「ダメでもともと。やってみて、次を考えよう」などといわれたときには、やる気があるのかないのか理解に苦しみます。気の長いように見えますが、「無可無不可」の本来の考え方である「~臨機応変に世の状況や大義を見極めながら判断する」という意味合いを忘れてはいけません。

「一見普通で平均」――このことに惑わされないことです。本心は用意周到、賢く振る舞うことです。そうでなければ、状況に応じて臨機応変に、などという悠長なことは言ってられません。

いつのころからか日本人は、平均であることが社会で生きていく上での「安全な術」であるという感覚になっており、出しゃばらずに、みんなと同じがいいと言う不思議な一体感、つまりこれが、"可もなく不可もない普通"という捉え方のようになっています。

企業においては、“命令には従うそこそこの人間”を採用し、その中からキラリとする人間を選択してきた時代が長く続いてきました。個性的な人材に目が向いた時期もありましたが、人口減少問題がクローズアップされてきた最近では、人材を「選ぶ」から「つくる」へ転換しつつあり、企業の人材開発制度にも変化が起きています。

ただ、なんとなく普通がいいと思っても世のニーズはそうではありません。今や、世界が舞台だと言う感覚が重要です。合掌
(本連載は今回が最終回となります、ご愛読ありがとうございました)
《牧野豊潤》

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