走るタブレット…東京都心で試乗 自動運転【木暮祐一のモバイルウォッチ】 | 東京IT新聞

走るタブレット…東京都心で試乗 自動運転【木暮祐一のモバイルウォッチ】

ソリューション 人工知能

 3年前に初めて対面して激しい衝撃を受けた電気自動車「テスラ・モデルS」。何に驚いたのかというと、もはやこれは自動車ではなく“ハンドルとタイヤが付いたタブレット”という第一印象だったことだ。抜本的に、従来の自動車とは思想が異なる。

 たとえばソフトウェアアップデートによる新機能の追加。iPhoneを初めて所持したときにiOSのアップデートで新機能が追加されて驚いたものだが、それと同じことを電気自動車でやってのけたテスラ。そのテスラの最新プログラム「ソフトウェア7.0」が1月15日より日本でも利用できるようになり、なんとそれによって「自動運転機能」が可能になったという。さっそく“走るタブレット”に試乗させていただくことにした。

■ソフトウェアアップデートで機能が追加される自動車

 初めてのテスラ・モデルS(以下、テスラ)との出会いは、2012年10月に米国西海岸・シリコンバレーの視察に行った際だった。シリコンバレーといえば、Google、Appleをはじめ、世界中のIT関連企業が密集するエリア。スタンフォード大学など著名大学も点在し、IT企業と大学の産学連携によりさまざまなイノベーションが生み出されているところだ。そのエリアにテスラのヘッドオフィスもあった。なぜ自動車メーカーがデトロイトではなくシリコンバレーにあるのか、ぐらいな気持ちで気軽に立ち寄ったのがきっかけだった。

 しかし、そのショールームで出会ってしまったテスラは「なるほど、シリコンバレーだ」と納得する見事な“スマートデバイス”であった。

 外側から見れば、テスラは普通のセダンだ。しかし車内に乗り込むと、まず最初に目に留まったダッシュボードにビルトインされた17インチの巨大なタッチパネルに度肝を抜いた。このタッチパネルを通じて自動車の諸設定や空調などの操作などを行う。タッチパネル操作が珍しいものではなくなっているが、“走るタブレット”と感じさせてくれるのは、テスラのこれが単なる自動車関連機能の操作パネルという発想ではなく、あくまで私たちが使い慣れたスマホやタブレットに通じた画面構成となっている点だ。おまけに通信もできる。

 ディスプレイ上部をご覧頂くと納得頂けるのではないかと思うが、バッテリー残量やBluetoothアイコン、そして電波状態(3G通信機能が備えられている)を示すアンテナマークなど、見慣れたアイコンが並んでいるのだ。自動車関連機能の設定や操作だけでなく、たとえば「ウェブ」アイコンをタップすればGoogleの検索画面が表示されるし、「ナビ」アイコンをタップすればGoogleマップが開く。取扱説明書を読まなくとも基本操作に戸惑わない。ちなみにOSはLinuxベースの独自開発だという。

 またウェブでの販売というのも斬新。日本では東京、横浜、大阪に「テスラストア」があるが、ストア以外にウェブからも購入できてしまう。車種、グレード、ボディカラーなどを選び、その他必要なオプションを選択していくと、ウェブ画面右上に合計価格が表示され、現金かローンを選択してあとは「注文する」ボタンをクリックするだけ。まるでウェブでパソコンを買う感覚である。さすが、シリコンバレー企業だけある。

 さて前置きが長くなったが、このテスラの最新ソフトウェアアップデートが1月15日に行われ「ソフトウェア7.0」となった。このアップデートで新たに追加された機能が、なんと「オートパイロット」という自動運転機能なのである。じつはこの機能は2015年10月以降、日本を除く世界では先行して利用可能であった。日本に関しては国土交通省の承認待ちとなっていたのだが、これがいよいよ認可を受け1月15日より利用可能となったのである。日本で販売されたテスラのうち初期販売車を除く、2015年1月以降に納車された車両に関してはソフトウェアをアップデートするだけで自動運転機能が追加できる。ソフトウェアのアップデートはもちろん無料。内蔵の通信機能(3G)を通じて更新が行われるそうだが、インストールにはおよそ2時間かかる。

 この「オートパイロット」であるが、具体的には「オートステア」「オートレーンチェンジ」「オートパーク」の3つの機能を利用できるようになった。テスラが周囲の状況を認知し、先行車に自動追尾し、また自動車レーンを判断して自動操舵してくれる。ウインカーを出せば自車の入れる車間を見つけ自動車線変更を行う。縦列駐車や車庫入れもテスラにお任せできる。同様な技術は他の自動車メーカーでも研究開発が進んでいるし、一部実用化も進められてきたが、日本に関しては国土交通省の承認のところで先に進んでいなかったのではないかと勘ぐる。そこに突然、テスラが風穴を開けてしまった感じだ。

■前後に12個のセンサーや光学式カメラで周囲を感知

 テスラの自動運転は、前後バンパーに組み込まれている12個の長距離超音波センサー、フロントナンバー下にミリ波レーダー、そしてフロントのルームミラー付け根に設置された光学式カメラによるセンシングによって実現させている。超音波センサーによってどんなスピードでも周囲4.8m以内のものを360度感知する。ルームミラー付け根の光学式カメラと、おそらくリアに取り付けられたバックビューカメラも用いて、周囲の車両種類や自動車レーン(車線やガードレール)の認識も行っているようだ。

 テスラのリリースによれば、このほかにGPS情報も加え、これらのモジュールが互いに補い合い、リアルタイムに収集されるデータから学習し、モーター、ブレーキそしてステアリングをデジタル制御し、正面と側面からの衝突事故を回避するとともに、車両がレーンから逸れることを防ぐという。自動運転というと、これまでイメージしていたのは高速道路での自動追尾やレーンチェンジを想像していたが、これが高速道路だけでなく一般道でも条件によって動作するようだ。

■すさまじい加速力なのに静か。いよいよ一般道で試乗!

 ということで、早速テスト車両で路上を走ってみることにした。試乗させていただいたテスラは、モデルSの「P85D」。「P」はパフォーマンスの意味、「85」はバッテリー容量(kWh)を、そして「D」はデュアルモーター(AWD)を表す。現在最もハイスペックな車両で、なんと0-100km/h加速は3.3秒! オプションの90kWhバッテリーにすればさらに0-100km/h加速は3.0秒になる。フェラーリ、ランボルギーニ、日産GT-Rに迫る加速だ。しかもテスラの場合、動力がモーターなのでエンジン音がなく、ほぼ静寂なまま「ひゅーー」という感じで加速していく。これが何とも不気味で、楽しい。

 さあ試乗である。テスラの形をしたかわいいインテリジェントキーをポケットに入れながら、ドアノブにタッチすると4つのドアのノブがせり出してくる。このギミックもたまらない。ノブに手をかけて重めなドアを開き、乗り込む。シートベルトを装着し、ステアリングコラム右にあるセレクターレバーを「D」に入れればテスラはスルスルと走り出す。なんともシンプルだ。

 オートパイロット機能を使用するには、タッチパネルで「コントロール」を開き、「ドライビングアシスト」のタブを選択して自動運転に関わる各種機能のON/OFFをあらかじめ設定しておく。とりあえずオートステアリング、自動車線変更をON、その他の諸設定を確定して、ドラインビングスタート。

 テスラのオートパイロットに関わる記事を見ると多くは高速道路での自動運転がレポートされている。ここではぜひ一般道、それも東京都心部での複雑な路上でのテスラの動作を観察してみたいと考えた。まずはテスラ広報ご担当のドライビングにより青山通りにあるテスラ青山を出発。オートパイロットの操作手順などを伺いつつ、表参道交差点を右折し原宿駅、代々木公園を抜け、井の頭通りを下る。そして笹塚周辺を回って甲州街道経由で新宿高層ビル街へ。

 ここで運転を代わらせていただき、いよいよ自分自身の操作でオートパイロットの体験である。まずは恐る恐る新宿高層ビル街の周辺をぐるぐると回りながら、オートパイロット関連操作の練習である。

 オートパイロットの操作は、ステアリングコラム左側、ウインカーレバー下に装着されているレバーで行う。テスラで走り出し、オートパイロットが利用可能な状態になると、速度表示の左右にメーターとステアリングのアイコンが白色で点灯する。これがオートパイロットに入れるスタンバイ状態だ。このアイコンが点灯した状態で、操作レバーを手前に1回引くとスピードアシストがONになり(白色点灯していたメーターのアイコンが青色点灯となる)、前方の車両に合わせてアクセルが自動操作されるようになる。テスラは道路ごとの制限速度も認識し、基本的には制限速度上限まで加減速してくれる。制限速度のオフセット設定もでき、上限は制限速度+10km/hまで設定できる。

 続いて、操作レバーを手前に2回引くと、今度はオートステアリングがONになり(白点灯していたステアリングのアイコンが青色点灯となる)、テスラが前方車両や車線を検知して自動で舵取りを始める。スピードアシストもさることながら、オートステアリングにはかなり衝撃を受けた。車線のラインにあわせてテスラが見事にステアリングをさばいていくのだ。オートステアリングでは、基本的に常にレーンの中央を走行してくれる。路上に何かしらの障害物があれば、それを避けるように走行する。たとえば路上駐車を避けるために対向車がセンターラインをはみ出してきたシチュエーションがあったが、テスラはそれを検知し対向車を避けるようやや左側に迅速に舵取りしすれ違っていった。

 複数の車線がある通りでも、ちゃんとレーンをキープしてくれる。車線のラインが薄いところもあったが、なかなかの認識のようだった。ライン以外に周囲の自動車や障害物などの情報も判断要素に加えているのであろう。一方でカーブなどで先の見通しが悪いところではオートパイロットが動作しないケースもある。たとえば、首都高速の台場出口のカーブは大丈夫らしいが、大橋ジャンクショントンネル内の延々と続くカーブは動作しないらしい。また、オートパイロット中にテスラが判断できなかったり、その他の危険がある場合はアラームが鳴りインパネには警告表示が出て、ステアリングもバイブしてドライバーに伝える。

■少しずつ自動運転の操作に慣れてきた

 ある程度、オートパイロットの操作に慣れたところで、あえて難関そうなコースに挑戦してみた。青梅街道から右折して山手通り(環状6号)に入り、中野坂上付近から中井付近までの間でオートパイロットに挑戦である。このあたりは、道は左右にカーブが続くほか、東中野駅付近は路上駐車が多いため左側レーンから自動車がはみ出してきたりと、何かと走行に気を遣う区間である。センターレーンで流れに乗ったところでオートパイロットをONにする。試乗した時は道路がやや混雑気味で2車線とも多くの車両に埋め尽くされ、それらが抜きつ抜かれつ、また車線変更を繰り返しながら進んでいる感じだった。そんななかでテスラは冷静に前方車両との距離を保ちながら、かつ見事にレーンに沿って走行してくれた。日本の交通法規上、ステアリングから手を放すことはできないので、軽く両手を添えた状態にしつつ、舵取りは完全にテスラに任せる形で前進していく。見事だ。

 また、アクセルワークのほうもテスラ任せだ。万が一の時にはすぐにブレーキを踏める状態にしつつ、テスラの判断で加速減速する様子を楽しんだ。前車が信号で停止すれば、テスラもちゃんと停止してくれる。そして前車が発進すると、テスラもスルスルと音を立てずに加速し前車に追尾していく。

 テスラの意に沿わないステアリング操作やブレーキ操作を行うと、オートパイロットは解除される。ちなみに一般道でもオートレーンチェンジは可能だそうで、車線変更したい方向にウインカーを出せば、テスラが自分自身が入れる車間を探し、そこに滑り込んでくれるという。さすがに試乗した日は混雑気味だったので、これを一般道で体験することはできなかった。また、何度かテスラに任せきりにできないシチュエーションにも遭遇し、そのたびにステアリング操作、ブレーキ操作などを行ってオートパイロットを中断させているので、山手通り・中野坂上~中井間を通しで自動運転できたわけではない。

■あくまでも自動運転=ドライバーのアシスト

 自動運転といっても、現状のオートパイロットは乗員を目的地まで完全自動で送り届けてくれるものではない。あくまでドライバーをアシストするものという位置づけであり、最終的な判断と操作はドライバーの責任で行わなければならない。当たり前のことだが、オートパイロットはドライバーの目的地を知らない。「その先の交差点を右折する」という操作はドライバー自身が行わなければならない。

 また、オートパイロットは障害物や走行するレーンは検知しているが、信号は判別できない。先行車がいれば追従して、加速、減速、停止などの動作をしてくれるが、もし先頭を走っていた場合はドライバーの判断で信号で停止する必要がある。前車が信号の変わりかけで交差点に進入したため、後続の自車が信号無視で交差点に進入してしまうなんてことも考えられる。

 テスラのような自動運転の普及とともに、信号無視による事故が増加しなければよいのだが……。Googleがマップで行き先を指定したらあとは座っているだけというような完全自動運転車の開発を進めている。テスラにもナビゲーション機能こそあるものの、オートパイロットと連動して完全自動運転を実現させるのはまだまだ当分先のことなのだろう。

■“人も乗れるIoTロボット”。縦列駐車も車庫入れもお任せ!

 車庫入れのアシストはすでに多数の国産車などにも搭載されているようだが、日頃まったくアナログな自動車に乗っている筆者にとって、テスラの縦列駐車や車庫入れは、これまた衝撃的だった。

 とある高層ビル地下の公共駐車場にて、空きスペースを探しながら徐行する。空きスペースを目で追う筆者と同様に、テスラもカメラやセンサーで空きスペースを検知して、インパネにも空きスペースを示す「P」マークが自車表示の左右に流れていく。

 ここに入れるぞと決めたら、その空きスペースを通り過ぎたところで停止させる。そしてタッチパネルが「オートパーキング準備完了」の画面表示に切り替わったら、「開始」ボタンをタップするだけ。あとはテスラが自らバックを始め、駐車スペースにするすると収まってくれる。ステアリングが高速で回転して据切りし、必要に応じて切り返しまでしてくれて駐車スペースに収まる動作は本当に驚いた。この一連の動作も、バンパーに装着されている超音波センサーと前後の光学カメラで判断し、テスラ自身が最善を考え動いてくれるのだ。冒頭でテスラのことを“走るタブレット”と表記したが、もはや“人も乗れるIoTロボット”だ。

 2時間ほど東京都心部でテスラを走らせてみたが、オートパイロットによる自動運転には本当に驚かされたものの、やはりあくまでドライバーのアシストをする機能であるということを認識させられた。ソフトウェアアップデートで今後も精度が高まっていくであろうし、さらなる機能進化もあるだろうが、現状はオートパイロットに任せきりにできるとは必ずしも言い難い。そもそもテスラは自分自身で操ってこそ楽しい自動車であると思う。しかし、たとえば長距離をドライブする際など、現地までの移動にオートパイロットを活用して、無駄な体力や注意力の消耗を減らすような使い方がベストかもしれない。

 今回ランデブーしたテスラ・モデルS「P85D」は、見た目は上品なワインレッドカラーの淑女といった出で立ちだったが、いざドライバーズシートに着座してみたら、オートパイロットではギリギリまで攻め込み何度も冷やりとさせてくれて(しっかり回避はできているのだが)、おまけにロケットのような加速も味わえ、いい意味でアメリカンなじゃじゃ馬だった……。

【木暮祐一のモバイルウォッチ】第91回 ついに“自動運転”が国内でも承認! テスラ・モデルS「P85D」を一般道で試乗

《木暮祐一》

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