【ITビジネス法務】「業務を発注する契約」を理解しよう(2) | 東京IT新聞

【ITビジネス法務】「業務を発注する契約」を理解しよう(2)

エンタープライズ 経営

~「完成義務」と「善管注意義務」~

前回の記事では、IT業界でよく結ばれる「業務委託契約」が、法的には請負と準委任のいずれかになることが通常で、請負と準委任がそれぞれどんな契約かについて解説しました。今回の記事では、業務を発注(受注)する契約を結ぶ場合に、この請負と準委任の違いがどう関わってくるのかについて、解説をします。

●仕事の完成義務を負うのか

請負と準委任、その最大の違いは、受注者が「仕事の完成義務」を負うかどうかです。

仕事の完成義務を負う請負では、発注者は、仕事が不完全だった場合、完成するまで修正作業を何度でも無償で行うよう請求できます。また、仕事が完成するまで、代金を支払う必要がありません。さらに、期限を過ぎても仕事が完成せず、それにより損害が生じれば、損害賠償を請求できます。その上、合理的期間内に修正作業が終わらなかったり、納期遅れによる支障が重大であれば、契約を解除できます。

一方で、準委任には仕事の完成義務がありません。例えば、コンサルティング契約で、期待していた成果が上がらなかったとか、要件定義支援契約で、要件定義書が完成できなかったとか、そういう場合でも、準委任であれば、受注者は上記のような責任を負わないのです。

●準委任にしたがる受注者

だからこそ、多くの受注者は、なるべく準委任で業務を受注しようとします。また、システム開発契約を、案件全体を一本の契約で済ませる「一括請負方式」ではなく、まず始め基本契約を結び、それからフェーズごとに個別契約を結ぶ「多段階方式」で結ぶベンダーが多いのは、発注者の協力がなければ完成にこぎつけることができない要件定義などの業務について、準委任で受注したいからです。

ここまで聞いて、準委任が随分と無責任な契約に思えてきたのではないでしょうか。とはいっても、準委任であれば結果に何も責任を負わない、というわけではありません。

●善管注意義務という責任

IT業界で準委任というと、マーケティング関連の契約がその典型例です。では、準委任で受注者が仕事の完成義務を負わないとなると、成果は何も保証されないのでしょうか。発注者としては、受注者から「この施策を打てば、アクセス数や問合せ数が上昇します! 当社には、豊富な経験と実績があります!」と言われたので発注したのに、後になって「準委任なのだから成果は保証できません。また次回頑張りましょう!」なんていわれたら、ふざけるなと思いますよね。

この点は誤解をしている人が多いのですが、準委任だと何も保証されない、というわけではありません。準委任で受注者には、仕事の完成義務の代わりに、善良なる管理者の注意義務(略して「善管注意義務」といいます)があります。

善管注意義務は、プロフェッショナルとして受注した以上は、その知識と経験に基づいて、通常期待されるレベルの業務をきちんと実施しなさい、という内容の義務です。そして、善管注意義務は契約上の義務ですので、これに違反すれば、受注者は法的な責任を負います。

そのため、発注者としては、業務が(善管注意義務に従って)きちんと実施されるまでは、費用を支払う必要はありません。また、不適切な業務によって損害が生じれば、損害賠償を請求できます。その上、合理的期間内に業務が是正されなかったり、不適切の程度が重大であれば、契約を解除できます。

それでは次回、マーケティング関連でこの善管注意義務が問題になった裁判について解説します。

筆者:藤井 総(ふじい・そう) 弁護士法人ファースト法律事務所代表弁護士。顧問先はベンチャー企業から上場企業まで90%以上がIT企業。サイト「IT弁護士.com」を運営。「IT弁護士.com」
《藤井 総》

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