【ITビジネス法務】「業務を発注する契約」を理解しよう(3) | 東京IT新聞

【ITビジネス法務】「業務を発注する契約」を理解しよう(3)

エンタープライズ 経営

~受注側の責任追及は困難~

前回の記事では、IT業界でよく結ばれる「業務委託契約」は、請負と準委任のいずれかになることが通常で、仕事の完成義務を負う請負と善管注意義務を負う準委任の違いについて解説をしました。今回の記事では、準委任になることの多いマーケティング関連の契約で善管注意義務が問題になった裁判について解説します。


●SEO対策の失敗の責任

その裁判というのは、SEO対策の失敗(順位の大幅な低下)を理由に、Webマーケティング会社が損害賠償を請求された事件です(私はWebマーケティング会社を代理しました)。その裁判で、発注者側の弁護士は、「ブログを量産してバックリンクを貼るやり方は、Googleからペナルティを受ける可能性の高いブラックハットであり、善管注意義務に違反する」と主張しました。これに対して私は、「当時は一般的な手法であり、Googleのペンギン・アップデートは予見できなかったので、善管注意義務には違反していない」と反論しました。その結果、判決でも無事こちらの主張が全面的に認められて、発注者からの損害賠償請求は棄却されました。

●善管注意義務違反の立証

この裁判が意味することは、「受注者は善管注意義務を負うが、これに違反したかどうか、発注者が判断することは難しい」、ということです。素人である発注者の方で、受注者がプロとしての業務を実施したのか、それとも不適切な業務だったのか、どう判断するのでしょうか。

現に、上で紹介した裁判でも、発注者側の弁護士は、受注者が善管注意義務に違反したと主張するための理由付けができませんでした。

このように発注者としては、準委任の契約では、善管注意義務に頼っているだけでは、責任を追求することが難しいのです。そこで、善管注意義務に頼らなくても受注者の責任を追求できる契約を結ぶ必要があります。

●成果報酬型の契約

それは、「目標数値をクリアすることを報酬の支払条件とする」、と受注者に要請するという方法です。もちろん、「目標数値をクリアしないと報酬は一切支払わない」となれば、さすがに応じてはもらえないでしょう。そこで、(1)結果にかかわらず支払うミニマムの報酬、(2)目標数値をクリアすることで支払うインセンティブの報酬というように、二段階の報酬を提案するのです。

この提案に対する受注者の反応で、これまでの経験や実績が見えてきます。もし十分な経験や実績があるならば、今回の施策でどの程度の効果が生じるのか、ある程度予想を立てられるはずなので、多少バッファを設けてくるにせよ、ミニマムの報酬額や目標数値を具体的に検討してくれるでしょう。逆に、経験や実績が乏しく、効果が予想できなかったり、十分な経験はあるものの、肝心の実績がないのであれば、断ってくる(固定での報酬の支払を要求する)でしょう。

もちろん、断られたら発注してはいけない、ということではありません。ようは、断られた場合は、いくら受注者が営業段階で威勢のいいことをいったとしても、効果は未知数だし、もし効果が生じなかったとしても、報酬は支払わないといけないということです。

以上、一口に「業務委託」といっても、契約の種類によって受注者の義務が変わってきます。その案件にマッチして、かつ、受注者にしっかりと責任を負わせられる内容の契約書を結ぶことが大事ということです。


筆者:藤井 総(ふじい・そう) 弁護士法人ファースト法律事務所代表弁護士。顧問先はベンチャー企業から上場企業まで90%以上がIT企業。サイト「IT弁護士.com」を運営。
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http://itbengoshi.com/
《藤井 総》

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