VRでモノ作りは何が変わる? | 東京IT新聞

VRでモノ作りは何が変わる?

ソリューション ものづくり

【記事のポイント】
▼企画からプレゼンまで製造業のあらゆる工程に活用できるVR
▼製造工程を効率化させるCADデータのVR化
▼工場やラインの3Dスキャンで、安全・効率的な作業環境を模索

■見えてきた製造業におけるVR利用のシナリオ

 マイクロソフトがヘッドマウントディスプレイ「HoloLens」の開発者向けキットを発売。ソニーも「PlayStation VR」の発売を予定するなど、バーチャルリアリティ(VR)のコンテンツを視聴するための環境が整いつつある。16年はVR元年といわれているように、今後これをトリガーとしてVRの普及が加速するのは間違いないだろう。

 ただ、VRでは身近なエンターテイメントや知育分野での利用ばかりが注目されているように思われる。しかし、実は今その応用が目覚ましく進んでいるのが、産業界での取り組みだ。

 その一端を見られる展示会「第24回 3D&バーチャル リアリティ展」が22日、東京ビッグサイトで開催された。会場ではVRの産業界に向けた応用についてさまざまな提案が行われていたが、中でも注目を集めていたのが、画像処理ソフトの開発を手掛ける「クレッセント」のブース。「エンジン組付シミュレータ」として、VRとモーションキャプチャの技術を組み合わせ、仮想上での作業姿勢などをアーカイブ化する取り組みが紹介されていた。

 これは、利用者がヘッドマウントディスプレイに加えて、モーションキャプチャ用のセンサー、ヤマハのセンサー内蔵グローブを装着。VR空間に表示されたエンジンの組付作業について、手で実際に触ってトレーニングができるというものだ。装着者の一連の動作は記録されるため、身体の負荷になるような作業場のレイアウトを見直したり、ベテラン技術者の動作とも比較できる。

 このようにモーションキャプチャを利用した技術継承については、会場内の他のブースでも見ることができた。ある企業では作業効率に20%の差があった新人とベテランのねじ締め工程について、モーションキャプチャでそれぞれの動作を解析。ねじ締め機を離すタイミングがコンマ数秒遅かったことから、重点的に指導するような取り組みを行ったという。

 クレッセント 代表取締役社長の小谷創氏によると、産業界におけるVRの導入で重要になるのがプロダクトライフサイクルへの意識だという。企画段階でのプレゼン、類似製品のリバースエンジニアリング、CADによる設計、組み立て方法やラインの検討、販売店のカタログ……。それらの工程にVRを組み合わす上で、どのようなシナリオを顧客が求めているのか? それを突き詰めて、テクノロジーに落とし込むことが、今後のVR普及で重要なポイントになるとのことだ。

「今は製造業での応用が進んでいますが、例えば小売店なら棚の陳列を考えてみたり、マーケティングやリサーチにも応用できます。まだまだ高価なシステムですが、今後数年でごく当たり前に利用できるものになっていくでしょう」


■CADデータのVR化でモノ作りが進化する

 製造業ではVRの活用として、CADデータの立体化が注目されている。3次元デジタルデータの有効活用を打ち出すプロノハーツも、これに取り組む企業の一つ。会場ではCADデータをVRコンテンツに変換するアプリケーション「prono DR」についての展示が行われていた。

 「prono DR」ではVRコンテンツ化した3D空間内を、ゲームコントローラーを使って行き来できる。デモでは工場の製造ラインがVR化されていたが、作業の際に腕をどのように入れるのか、配線がどのように組んでいくかなどを、感覚的につかむことができた。視線の高さを調節できるため、身長によって変わる視界が作業にどう影響するか、常に非常ボタンが見えるかも事前に確認できるという。

 プロノハーツ 代表取締役 藤森匡康氏によると、設計者にとってはCAD上でデータを見まわすだけでなく、それを実物のように確認するのには大きな意味があるという。実際に製品化すると、どこかが薄っぺらい、安定しないといったよくある問題。それを、VR上で確認しておけば、事前に回避できるとのことだ。

「prono DRはコントローラーで操作できるので、実は設計や製造の現場以外でも評判がいいんです。CADを使って上司にプレゼンしても、なかなか判子を押してくれないこともあるじゃないですか。でも、コントローラーなら使いやすいので、気軽に試してもらえるわけです」

 そのほか、ブース内には工場やホールを丸ごとVR化するという、「prono Scan Service」も出展されていたが、これは企業からのリクエストを受けて1カ月ほどで急きょ開発したものだという。このサービスの一番のメリットは、管理者が現場に行かずに済むこと。ラインを増設しようとしても、現場のレイアウトは日々変わるため、工場完成当初の図面は参考にならない。しかし、間取りが変わるたびに、その様子をVRで保存しておけば、新たな機械やラインが入るかをすぐ確認できるというわけだ。

「高所での作業でも危険はないか、負担の少ない作業姿勢が作れるかなど、VRコンテンツがあれば様々なことが分かります。過去の工場の様子も記録できるので、ライン変更の際の参考にもなるのではないでしょうか」

 技術継承やモックアップにかかる設備、人員の配置をVRで補えれば、それはコスト削減につながる。現状では初期投資を考えると、まだまだ導入がためらわれる部分もあるが、VRの普及が広がれば間違いなく導入費用は下がる。それは、クレッセントの小谷氏も認めているところだ。問題はその採算分岐の見極めだろう。VRの応用範囲と導入コストについては、今後も注意深く見詰めて行きたい。

【VR展:1】バーチャルリアリティでモノ作りは何が変わる?

《丸田鉄平/H14》

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