大企業と対峙する中小企業マーケター | 東京IT新聞

大企業と対峙する中小企業マーケター

エンタープライズ 経営

★取り組むべき2つのウェブ施策
★リアル店舗とどう連携するか

急速に変化を遂げるデジタルマーケティング業界---。特に直近10年を振り返ると、新しい技術が矢継ぎ早に現れては消えてを繰り返してきました。今回のお話では、資金的・人的リソースが限られる中小企業のマーケターの方向けのアドバイスとして、「自動化」と「クロスデバイス」のお話をさせていただきます。


■遅れるスマホアプリへの対応

7年ほど前であれば、デバイスはほとんどがPCとガラケーが占めていたように思います。しかし、現在はスマートフォンやタブレット、あるいはウェアラブル端末などのモバイルデバイスを抜きに、今日のデジタルマーケティングを語ることはできない状況になっています。こうした急激な環境の変化のなか、中小企業のマーケターが、今後10年を見据えて取り組むべきデジタルマーケティングについて、今回はお話ししたいと思います。

EC事業者を、大企業と中小企業にざっくりと切り分けた際、デジタルマーケティングにおいて、特に顕著に違いが見られるのは、おそらくアプリへの対応でしょう。中小企業では、スマートフォンやタブレットへのウェブ対応はできていることが多いですが、アプリの話になるとその対応はまだまだと言わざるを得ません。

たとえば、中小のEC企業においては、俗称ですが、いわゆる「WebView」で作成されたアプリがいまだに非常に多い状況です。アプリ自体はネイティブコードで書かれているが、コンテンツ自体はアプリ内ブラウザ機能でウェブページとして取得して読み込むため、初期開発ハードルが比較的低く、コンテンツ追加も容易、といったメリットから3~4年前から普及してきた開発方式です。しかし、デジタルマーケティングの観点から見ると、各種施策を打ちづらくなってしまうという大きなデメリットが存在するのです。

一般的に、マーケティングツールをアプリに導入する場合は、SDKを組み込んで実装するケースが多いですが、WebViewのアプリには対応できなかったり、不具合が生じる場合が少なくありませんでした。こうしたマーケティング上のデメリットを差し置いても、数年前はスマートフォンの普及も途上でしたし、アプリへの対応が二の次になってしまっていたことは当然のことであったように思います。

しかし直近3~4年で一般消費者のスマートフォン保有率は急激に上昇し、昨年度は64.2%がスマートフォンを保有しているというデータもあります(総務省平成27年版 情報通信白書インターネットの普及状況)。こうした環境下において、EC事業者の多くが、ウェブだけでなくアプリにも力をいれなくてはいけないという流れになってきました。

■デジタルマーケティング施策

この急激な変化に対応するため、よりスピーディーにマーケティングを実行するためにも、WebViewではなく、完全にネイティブアプリとして制作・運用するのが好ましいという意識を持つようになり、以前と比較して様々なデジタルマーケティング施策を打ちやすい状況に変化してきています。

従来はネイティブアプリの開発やメンテナンスは、WebViewの場合と比べて、ネイティブコードを使いこなせる人が多くなかったため、コストが高くなる傾向にありましたが、近年のゲーム業界を中心とするアプリ開発の盛り上がりに伴い、ネイティブコードを書ける人が増えてきたことや、パッケージ化されたアプリを提供するベンダーが台頭してきたことから、コストは非常に抑えられるようになっています。

オンラインショッピング市場においては、7年前くらいはPCからの売上がほぼ9割を占めていて、スマートフォンからの売上は非常に限定的であることが大半でした。しかし、こうしたEC事業者の売上構成も大きく変化しており、アプリ発で登場した事業者でなくとも、今ではスマートフォンからの売上のほうが多い、というケースも少なくありません。スマートフォンでの売上をさらに伸ばすために、デジタルマーケティング施策を強化しようと考えた際、中小企業の場合は予算や人的なリソースがより限られています。そのため、多くの場合、予算の大半を新規顧客獲得に費やしてしまうことが多い状況です。

一方で、大企業のマーケターの多くは、新規顧客獲得の際も、「過去の検索履歴からどの自社商品に興味がありそうか」といったレコメンデーションの精度を高めたり、「一度訪れたお客さんをどう引き止めておくのか」を検証し、途中離脱率を低減させたりと、莫大な予算と人的リソースを駆使して、様々なトライアンドエラーを繰り返しています。大企業であっても、インターネット上を渡り歩く顧客をより深く理解していなくては、モノが売れないという状況なのです。

■「自動化」と「クロスデバイス」

では、予算や人的リソースが限られている中小企業のマーケターはどのようにこの状況を打開すれば良いのでしょうか。この課題の解決策は2つあります。

まずひとつは「自動化」です。資金的にも人的リソースでも、大企業と比較して限定的な中小企業にとっては、少しのお金でマーケティング効果を最大化させることをどの企業でも望んでいます。昨今、世間で話題になっている「人工知能」「機械学習」の試みは、デジタルマーケティングに大きな変化を起こしつつあります。「人工知能」や「機械学習」は、マーケティングオートメーションやアドテクノロジーなどにも応用されており、こうしたサービスを一度導入すれば、自動的に最適化し、運用まで行ってくれるものも少なくなく、中小企業のニーズを満たす一手段と言えます。

今後はウェブ接客における「チャットボット」のような、お客さんがサイト上のチャットで質問すれば適切な答えが返ってくるというサービスや、テレオペの業務も今後は自動化していくものと予想されます。そういう意味では資金的にも人的にも余裕のない中小企業には良い時代がやってくると思います。

もうひとつは「クロスデバイス」です。最近ではモバイルPC、スマートフォン、タブレット、場合によってはウェアラブルデバイスなど、複数のデバイスを持ち歩くことは珍しいことでなくなっています。

この好環境の中、中小企業の多くはその恩恵を受けられていない場合が多いという現実があります。たとえば、一人の人物がスマートフォンアプリで商品を検索し、その後にタブレットで商品を比較検討し、最終的にPCで購入したとしましょう。この場合、購入した人物は一人のはずですが、クロスデバイスに対応していない場合、三人の人物が別々に行動している、と分析されることも考えうるわけです。

PCのマーケティング担当、スマートフォンのマーケティング担当、というようにデバイス毎にマーケティング担当が分かれている場合は、各セクションごとにノウハウが蓄積されていることが少なくありません。少数精鋭でセクションに分かれすぎていない中小企業こそ、クロスデバイスに対応することは重要だと考えています。消費者が「気になる」「欲しい」と思ったときに、いつでもインターネット上で購買までエスコートできる環境をいち早く作ることができた事業者が、このシビアな環境を生き延びることができると言えるでしょう。

■データフィードマーケティング

上述した2点の解決策に加えて、EC事業者でこの数年話題になっているデジタルマーケティングのひとつに「データフィードマーケティング」というものがあります。データフィードとは、リスティング広告やリターゲティング広告などを配信する際に、自社で保有している商品データを配信先のフォーマットに変換する仕組みのことなのですが、これまではデータフィードの導入には、費用面や工数面でマイナスイメージを持つマーケターが多かったように思います。

実はこのデータフィードの導入はこの数年でかなり容易になっているのです。データフィード作成を代行するベンダーや、直接ECサイトから商品情報を取得する新しい仕組みが登場したことにより、データフィードを使ったマーケティング手法を行うのに、場合によっては平均2~3カ月かかっていた導入期間が、最近では3~4週間で実装まで完了できるようになっています。

また、このデータフィードは従来のリスティング広告、リターゲティング広告といった広告施策はもちろんのこと、自社サイト内の商品レコメンドや、かご落ちユーザーに対するEメールマーケティングなど、幅広いマーケティング施策に応用することができるようになっており、今日のEC事業者にとっては不可欠なものになっているように思います。

■リアル店舗の定義が変わった

これまで、オンライショッピングにおいてのデジタルマーケティングについて述べてきましたが、中小企業のデジタルマーケターが今後取り組むこととして、リアル店舗とどのように連携するか、という観点も非常に重要です。

デジタル先進国とも呼ばれるアメリカにおいては、リアル店舗の定義が大きく変わりつつあります。アマゾンやアップルといった大企業は、リアル店舗を「販売チャネル」というよりも「ブランド体験の場」としてショールーミングし、マーケティングに取り入れるという新しいマーケティングの試みを行っています。韓国や東南アジアの小売店でも、店頭商品にQRコードを設置して購入と配送をオンラインで完結する、といった事例も出てきました。

もちろん中小企業にとって常設の店舗を出すことは前提条件ではないこともあるとは思いますが、ポップアップショップなど期間限定のリアル店舗を「製品体験の場」として、オンラインショップ専業だった企業がリアル店舗に進出するという可能性は大いにあります。また、ショールーミングが一般化しつつある今日において、消費者が製品をリアル店舗で体験し、オンラインショップで購入するという最近の購買行動は、前述したデジタルマーケティングの側でクロスデバイスを念頭に置いた施策が整っていなければ、マーケティング施策として全容を捉えて最適化することができません。

消費者が「いつ」「どのデバイスで」「何を」「何円のものを」「何回」見ているのかをクロスデバイスで統合的に把握できていれば、消費者が「気になる」から「買いたい」に態度変容したタイミングを逃さず、消費者に適切なタイミングで商品をアプローチすることが可能となります。マーケターの人的リソースが限られる中小企業こそ、クロスデバイスマーケティングを早期に実現すべきです。


[筆者紹介]河野正寛(かわの・まさひろ)
Criteo Senior Sales。CRITEOはパフォーマンス広告およびマーケティングに特化したテクノロジー企業。本社はフランス。
http://www.criteo.com/jp/
《河野正寛》

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