#008 株式会社オトバンク(代表取締役 上田 渉氏)

【pick up a start-up(注目ベンチャー探訪)】

2008年02月26日(火)

[ 73 号]

 これからの本は「耳で読む」。株式会社オトバンクが仕掛けるオーディオブック事業が注目を集めている。
 オーディオブックとは書籍を朗読によって音声データ化したもの。
 同社は現在オーディオブックのポータルサイト「FeBe(フィービー)」、新刊書籍のダイジェスト版が聴けるサイト「新刊JP」を運営している。
 出版不況が叫ばれる昨今、「聞く書籍」の需要はどんな広がりを見せているのか。同社代表取締役社長の上田渉氏と取締役の久保田裕也氏に話を聞いた。

制作から配信まで自社一貫。オーディオブック最大手

上田 渉◆東京大学経済学部出身。在学時は生産管理で著名な藤本隆宏に師事。オーディオブック市場拡大のため、日夜出版社と新たなモデルの創出に奔走している。2004年12月より現職

上田 渉◆東京大学経済学部出身。在学時は生産管理で著名な藤本隆宏に師事。オーディオブック市場拡大のため、日夜出版社と新たなモデルの創出に奔走している。2004年12月より現職


 米国ではカーオーディオ用のカセットテープとして需要があったオーディオブック。日本でもCDなどの商品があったが、携帯プレーヤーが重い、かさばるなどの理由により今ひとつ普及しなかった。

 しかし、2003年頃からiPodを始めとする小型のデジタルオーディオプレーヤーが普及し始め、ウェブからダウンロードした音楽ファイルを聴く時代が到来する。上田氏はこの変化を見逃さなかった。

 上田 「創業に当って相談した周囲はこぞって反対しました(笑)。誰も、出版社のことや出版業界を知らなかったことも反対した理由にはあったのでしょう。でもだからこそ、自分たちでノウハウを作ってしまえば、後から参入するのは難しくなると考えたのです」

 オトバンクが現在注力する事業は出版社と組んだ新刊書籍の紹介(新刊JP)とオーディオブックの制作・配信(FeBe)だ。

 上田 「新刊JPでは新刊本のダイジェストをウェブ、またはポッドキャスティングで聴くことができ、現在20万人以上にお使いいただいております。
 30万部を突破した『夢をかなえるゾウ』(水野敬也著、飛鳥新社)はここからベストセラーに成長したんですよ」

 こうした新刊のプロデュースには販売キャンペーンが欠かせない。

 上田 「例えば著者の動画インタビューをウェブで公開したり、新聞広告にQRコードを載せて携帯電話でも聴けるようにしたりもしています。物語小説であれば声優を何人も使ってラジオドラマ風に紹介する(笑)。出版社と協力、書店とも連携して、書籍の売り上げを伸ばす仕組みづくりをしています」

 まるで大手出版取次会社みたいだが、ウェブに特化しているだけに柔軟な販売プロモーションが可能となるのだ。

 上田 「そしてオーディオブックですが、本を音のデータに変えるのは通常コストがかかり、出版社がおいそれと手を出せる領域ではありません。私達は制作から配信、販売促進まで低コストで一貫して提供できるのが強みで、中小から大手出版社まで制作依頼をいただいております。オーディオブックに関しては、出版社にとってのインフラの役割を果たしていると言えます」

 久保田 「どの本をオーディオブックにし、どの声優を使ってどう売るかまでトータルにご提案致します」

久保田 裕也◆東京大学経済学部卒業。オトバンクには創業当時より参画し、「新刊JP」「FeBe」などサービスの運営他、業務全般に従事。2007年2月より現職

久保田 裕也◆東京大学経済学部卒業。オトバンクには創業当時より参画し、「新刊JP」「FeBe」などサービスの運営他、業務全般に従事。2007年2月より現職


 セキュリティも独自の技術を採用する。

 上田 「通常のDRMは音波の前後に鍵を埋め込むものと言えますが、CDに焼いてしまうと鍵が外れるために『海賊版の温床』と言われています。私たちの技術は音波自体にユーザ固有のIDを組み込むため、誰が違法配信したかが追跡調査でわかる仕組みです。またIDを除去するとデータそのものが破壊されるので、安全度も高いです」

 著作権保護への意識の高さが窺える。

ラジオ同様の「ながらコンテンツ」

 今後は、電通、cciとともにポッドキャストにおける効果的かつ効率的な広告集稿・配信システム「podcastAD」をリリースするなど事業拡充にも旺盛な同社だが、読者層の拡がりをどう見ているのか。

 久保田 「オーディオブックをダウンロードするためにわざわざインターネットを引いたというお客様がいらっしゃいました。全くの初心者と見えて、コンセントのつなぎ方から電話でサポート致しましたが(笑)。ラジオと同じように聴きながら別の事をできるのが、オーディオブックが好まれる理由の一つではないでしょうか。ITリテラシーに関係なく、普及すれば文化として定着したと言えると思います」

 上田 「今後は更に取扱書籍のジャンルを増やして、例えば『聴くケータイ小説』の様な試みにも挑戦したいですね。付け加えると、オーディオブックになったら、実際の書籍の売上が伸びたという例もあるんですよ」

 聴いた後だと倍の速さで本が読めるという。出版業界の光明、ここにあり?!

●「FeBe(フィービー)」(http://www.febe.jp/) 日本で最大のタイトル数を揃えるオーディオブック配信サービス。ビジネス書・自己啓発書が中心だが、講演会や落語などの音声データもダウンロード可能。オーディオブック化のリクエストも受け付けている

●「FeBe(フィービー)」(http://www.febe.jp/) 日本で最大のタイトル数を揃えるオーディオブック配信サービス。ビジネス書・自己啓発書が中心だが、講演会や落語などの音声データもダウンロード可能。オーディオブック化のリクエストも受け付けている


●「新刊JP」(http://www.sinkan.jp/) 無料登録をすると新刊書籍のダイジェスト版を聴取可能。今話題の書籍・新刊を6分間ほどの音声ファイルに要約し、ドラマやBGMを交えてわかりやすく説明する。ポッドキャストで定期的な聴取が可能だ

●「新刊JP」(http://www.sinkan.jp/) 無料登録をすると新刊書籍のダイジェスト版を聴取可能。今話題の書籍・新刊を6分間ほどの音声ファイルに要約し、ドラマやBGMを交えてわかりやすく説明する。ポッドキャストで定期的な聴取が可能だ

( 文:斉藤円華、写真:岡部ユミ子 )

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