[アイティア株式会社 代表取締役 むぎばやしひろこ]

ユビキタス時代の“新体験メディア”創出

2008年03月25日(火)

[ 77 号]

 「メディアアートってなに?」――まだ余りなじみのない言葉である「メディアアート」。ITには通じている本紙読者でも、知らない人はまだまだ多いのではないか。

 メディアアートとは大まかに言って、芸術表現に最先端の技術を取り入れたものの総称だ。その中にはいくつかジャンルがあるが、例えばビデオアートの先駆者にはナム・ジュン・パイクがいる。また、魚の骨格を模した電気コードで有名なユニット「明和電機」も有名なテクノロジーアーティストだ。さらに、例えば現代アーティストの村上隆氏は六本木ヒルズのトータルプロデュースに参加した時に『ロクロク星人』をデザインしたが、そうした活動も広義のメディアアートの枠に入るかもしれない。そう考えると、メディアアートは結構身近に感じられるのではないだろうか。

 今回インタビューするアイティア株式会社代表取締役のむぎばやしひろこ氏は、ITが実現した双方向性やユビキタス技術をベースに、日常空間に映像アートを表現する活動を続ける。そして単なるアートの枠を自ら取り払い、メディアアートを一個のビジネスとして確立しようと様々な試みを続けている。目黒区のオフィスを訪ねた。

むぎばやしひろこ 体験メディア・プロデューサー。IAMAS(情報科学芸術大学院大学)メディア表現修士。エイベックス(株)マルチメディア部ディレクター、エイベックスネットワーク(株)新規事業チームプランニングマネージャーを歴任後、独立。06年9月、アイティア(株)設立。代表取締役就任。著書に『かわいいサイエンス』など

メディアアート、その可能性とは

 アイティアが標榜するのは「ユビキタス時代の『体験メディア』の提供」。これは具体的に何を指すのか。むぎばやし氏は次のように語る。

 「『コンピュータビジョン』や『フィジカル・インターフェイス』『メディアアート・クリエイション』、そして『実世界指向』をキーワードに、ウェブやモバイル、あるいは人感センサーやRFID(ICタグ)を組み合わせて、新しいメディア・コミュニケーションの実現を目指しています」

 そして「これをご覧ください」と言うと、PCのディスプレイを立ち上げた。画面にはウェブカメラが撮影したわれわれ取材スタッフのリアルタイム映像が。われわれが手を動かしたりカメラのフラッシュを焚いたりすると、その動きに合わせてマンガの吹き出しのようなCG映像がたくさん登場して動き回る。

 「映像の動きをプログラムが自動認識しているんです」とむぎばやし氏が説明する。
 その画面を見ていると、自分までCG映像の一部になったようで何だか不思議な気分だ。

 ここで先の氏の言葉をおさらいしよう。
 「コンピュータビジョン」とはコンピュータによる自律的な映像認識の技術のこと。平たく言えば、「ロボットの目」の技術だ。
 そして「フィジカル・インターフェイス」とは、目や手・言葉にとどまらない、体全体をも含めた情報のやりとりの仕組み。ゲーム機「Wii」のリモコン操作を連想するとわかりやすい。
 それらの技術をベースに「メディアアート・クリエイション」を演出するが、その方向性は単なるアートにとどまらない。実世界つまり実社会における有用性、ビジネス性を目指す――というのがむぎばやし氏の考えだ。

 大学で社会学を学び、エイベックス株式会社ではマルチメディア部ディレクターなどを務めた氏は2004年に退社。IAMAS(情報科学芸術大学院大学)で2年間学び、そこで知り合った仲間を中心にアイティアを設立する。

 「メディアアートの世界は面白いけど、体験できる領域がこれまで美術館やアカデミズムの場に限られて来ました。私たちはメディアアートをビジネスとして成立させたい、と考えています」と意気込む、むぎばやし氏。IT技術の進展がメディアアートの可能性もまた押し広げつつある。

音や動きで映像が変化

 アイティアが得意とする分野の一つが、先程のデモンストレーションに見られる双方向型・体験型メディアを駆使した広告展開(同社ではこれをインタラクティブ・アド・クリエイティブ事業と呼ぶ)だ。

 3月18日から23日までの6日間、六本木ヒルズのメトロハットでフォトギャラリー『α・インタラクティブ・メガギャラリー』が開催された。これはソニーのデジタル一眼レフカメラ「α」のプロモーションとして展開されたのだが、アイティアのメディアアートコンテンツの真骨頂と呼べるものだ。

ソニーデジタル一眼レフカメラα

『α・インタラクティブ・メガギャラリー』では、六本木ヒルズ・メトロハット内の全周に映画スクリーン12枚分の巨大スクリーンを設置。「自分の撮った写真を公開し、共有することで広がる」ソニーのデジタル一眼レフカメラ『α』のコンセプトを表現するものとなった

 メトロハット内に円周上に巨大スクリーンを配し、α350のTVCFに起用された女優・香椎由宇さんが撮影した写真と、リアルタイムカメラがとらえるエスカレーターを上り下りする人々の映像が瞬時に大画面に合成されて、スクリーンに映し出される写真が踊るように動く。
 現実空間の動きと仮想空間の映像が連動しているのが醍醐味だ。

 その中心となる考え方をむぎばやし氏は「これまでの広告は情報を送り手から受け手へ一方的に流すだけでした。私たちが作る物は、観客が参加して何かをすることで、その場が変化していくことを大事にしています」と説明する。

「カスタマイズ看板」も夢じゃない?

 ITビジネスのトレンドを探っていくと、一つの大きな潮流を感じる。それはマーケットをマス(大衆)としてではなく、多様な価値観を持った個人の集合として捉える、ということだ。
 そこでは諸個人の価値の発信こそが新たな価値の原資となる。発信―共有―再発信の連続、いわゆる「Web2.0」の現実がそこにある。

 アイティアが展開するインタラクティブ・アート・メディアによって、これまでマスに向けて発信されていた広告までもが一人一人にあわせて最適化、カスタマイズされていくのだろうか。

 「例えば道路の看板はメッセージが固定されていますよね。でもユビキタス技術を使えば、人がそこを通るたびにその人に合わせて最適な情報を看板に表示させることも可能になるはずです」と話すむぎばやし氏。

 「SuicaかPASMOをお持ちでしたら、ここにかざしてみて下さい」と言われるままに読取装置に当ててみると、PCに相性占いの画面が立ち上がった。これはICカード「FeliCa」とFlashコンテンツを連動させて商品やサービスの告知などに使おうという技術「Felish」のデモンストレーションだ。
Felish

読取装置にFeliCa内臓ICカードをかざすことでFlashコンテンツを連動。FeliCaを利用して占い・デジタルインセンティブ配布・モバイルアンケート調査などが可能になる

 また、同社が提供する「RSS to GPS」はGPS携帯が取得した緯度および経度情報をもとに、付近の地域情報を自動生成するもの。検索ワードの縛りがないために、これまでワードから取りこぼれていた情報も網羅できるようになるという。
 これらのサービスは、特定の地域で、特定の誰かに、その人が求める情報を届けることを可能とする技術だ。

 むぎばやし氏は「インターネットで出来ていることが、現実の空間の中ではまだまだ実現していない。インタラクティブな参加型体験メディアは、実社会でWeb2.0的な体験を私たちにもたらします。またそれは、一人一人の社会参加の可能性をも広げていくでしょう」と語る。

 アイティアのキーテクノロジーの一つが「コンピュータビジョン」であることは、先に触れた。
 カメラを通じて人の動きを感知し、自動で反応を返す。こうしたアイデアには人間の意識的・無意識的なニーズを先読みする、「痒いところに手が届く」とでもいうべき面白さがある。

 「メディアアートには、まだまだ日の目を見ないユニークな発想が眠っています。だから楽しい」。むぎばやし氏の率いるアイティアが今後、どんな世界をわれわれに見せてくれるか、楽しみだ。

アイティア株式会社(AITIA Corporation)http://www.aitia.co.jp/

AITIA(アイティア)は、ユビキタス時代の『体験メディア』を提供するオンリーワンカンパニー。コンピュータビジョン技術、実世界指向インタフェース技術、メディアアートのクリエイティブを核として、ウェブ/モバイル/人感センサー/RFID/各種デバイスを統合した、体験メディアによるセンセーショナルなコミュニケーション・ツールを提供
( 文:斉藤円華、写真:岡部ユミ子 )

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