#012 株式会社エニグモ(共同最高経営責任者 須田 将啓氏)

【pick up a start-up(注目ベンチャー探訪)】

2008年03月25日(火)

[ 77 号]

 「個人がバイヤーになって商品を買付け」「個人ブログで新商品のレビューを書いてもらう」「消費者が企業CMを制作」「ケータイで不用品をシェア」――今まで誰も見たことのない、奇想天外な新ビジネスを生み出し続ける会社がある。株式会社エニグモだ。

 一見すると「果たして商売として成立するのか」と思うようなビジネスばかりだが、詳しく見ればそこには明確なビジョンがあった。同社共同最高経営責任者の須田将啓氏に話を聞いた。

須田将啓◆慶應義塾大学院理工学研究科計算機科学専攻修士課程修了。2000年博報堂入社。2004年に退社、同年に田中禎人氏とともに株式会社エニグモを設立。現在、エニグモ代表取締役共同最高経営責任者。1974年茨城県水戸市生まれ

個人の数だけニーズがある

 同社が現在国内で展開するサービスは4つ。個人がバイヤーとなって商品を買い付ける「BuyMa(バイマ)」、個人ブログを活用してバイラルプロモーション(クチコミの伝播で爆発的に情報を伝播させる)を行う「プレスブログ」、消費者自身が企業CMを制作する「filmo(フィルモ)」、会員同士で不用品を融通しあう「ShareMo(シェアモ)」。

 どれ一つ取っても他に類を見ないサービスだ。バラバラに事業展開しているようにも見えるが、共通項はあるのだろうか。

 須田 「これまで資本力や経験のある企業が広告や流通のマスを担ってきましたが、その影に埋もれて個人の面白い力や能力には陽の目が当たりませんでした。けれども実はそこにこそ価値が眠っていて、それを引き出して束ねれば、マスが持っていた影響力を凌駕するような新しい市場を作れると考えました」

 人々の消費行動が個性化・差別化へと絶えずシフトする成熟社会。これまでの大量生産ありきの市場に収まらない消費者層が増えていることは、論を待たない。
 しかし氏のそうした視点は、どの様に培われたのだろうか?

 須田 「僕は広告代理店でいろいろCMを作ってきたけれども、そこでは商品がどんな状況で使われるか、どんなニーズがあるかをユーザから聞き取り、最大公約数のキャッチコピーへと練っていく。でも、常に価値がそぎ落とされていくことを避けられない。そうした価値はニッチかもしれないが、そこにこそリアリティがある。埋もれた価値を紡ぎ合わせて市場に出したいと考えました」

 須田氏と同じく共同代表の田中禎人氏とは博報堂で知り合う。「面白いアイデアがある」と田中氏が須田氏に持ちかけたことがエニグモ設立の端緒となった。
 個人のニーズに焦点を当てたビジネスは「BuyMa」から始まる。

 須田 「消費者の視点でバイヤーが『これ、売れそうだ』と思ったものを出品する。それは企業が考える売れ筋と違うかもしれないが、そうやって発掘されたものが売れていく。一人一人の発掘する力は小さいけれど、それが10~20万と集まれば大きな市場になります」

 システムもユニークだ。バイヤーは商品を買い付ける必要がなく、デジカメで撮影した商品を登録するだけ。オーダーが入った時点で必要なだけ購入、発送すればよいので在庫を持つ必要がない。海外にしかないレアアイテムが「BuyMa」からいくつも売れ筋として巣立っていった。

 須田 「TV番組『おねえ★MANS』でIKKOさんが紹介した、『BBクリーム』がそうですし……(笑)。でもビジネスが軌道に乗るまでは本当に大変でした」

 なにしろ前例のないビジネス。何度も外部と提携して立ち上げようとしたがことごとく頓挫した。

 須田「もう自分たちでやるしかないと。それで苦労して立ち上げたはいいが今度はなかなか市場が動かない。エネルギーの持って行き場がなくて(笑)、やきもきしました」

 しかし一度軌道に乗ると順調にユーザが集まり出した。後続のサービス「プレスブログ」と「filmo」にはこの時の「BuyMa」でのプロモーションのノウハウが活きている。

「シェアモ」誕生の理由

 「フライパンから飛行機まで」。「シェアモ」は主に携帯端末からアクセスする国内初の「ソーシャル・シェアリング・サービス」だ。

シェアモ(http://shmo.jp/)
「いらないものをシェアすることで誰もがハッピーになり、環境にもやさしい」というコンセプトで立ち上がったサービス。携帯からのアクセスに加えて、4月から機能を限定したPC向けウェブサービスも開始する

 須田「コンビニのビニール傘が新品のまま捨てられているのを見て、もったいないと思ったのがきっかけです。モノは『誰かのもの』だから使われずに眠っている。それを『共有物』にしたら誰もが自由に気兼ねなく使えて無駄がない。そう考えると家の中には眠っているものがたくさんあるんですね。売買じゃなくてシェアする、かつての『ご近所付き合い』のような生活って今後、絶対に来ると思いますね」

 既に「シェアモ」の中では5巡ほどしている品物もあるとか。ケータイでシェアリングという視点が斬新だ。エニグモは「懐かしい未来」をも見せてくれるのか。この4月から本格稼働する。

 須田 「企業は口コミの影響力と個人の情報発信の影響力をもはや無視できない。個人と企業が対等な立場でコミュニケーションできる、そんなビジネスをこれからも開拓していきます」

 エニグモのユニークさを伝えるにはとても紙幅が足りない。読者がまずサービスを体験して欲しい。

謎の会社、世界を変える。―エニグモの挑戦
(¥1,680税込、株式会社ミシマ社)

出井伸之氏(元ソニー最高顧問)が「ソニー、ホンダを超えてほしい。現代ビジネスは、20世紀とまったく違うロジックで動いている。本書を読めば、それがよくわかる」と賛辞を寄せた話題の本。エニグモ誕生から今日に至る疾風怒濤の日々が綴られる
( 文:斉藤円華、写真:岡部ユミ子 )

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