IT業界は5人に1人がうつ予備軍

ITワーカーのメンタルヘルス対策(1)

2008年04月01日(火)

[ 78 号]

株式会社ライフバランスマネジメント 渡部 卓 代表取締役に聞く

 IT業界では日々新しいビジネスが立ち上がり、成長と変化が著しい。それゆえ、そこで働く人々にとってはストレスが溜まりやすいのも事実。なかには、職場環境に適応できずにうつ状態に陥る人もいる。うつは企業にとって損失であるだけでなく、何より自分自身にとって大きなダメージだ。うつになりやすい性格傾向はあるのか。また、ならない為の予防策はあるのだろうか。企業のメンタルケアの第一人者である、株式会社ライフバランスマネジメント(以下LBM)代表取締役社長の渡部卓氏に、自身の経験を振り返ってもらいながら話を聞いた。

わたなべたかし 早稲田大学政経学部卒、米国ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院卒、モービル石油、ペプシコ社、AOL、シスコ・システムズなどで米国本社勤務を含む、事業部長、本部長職などを経て株式会社ネットエイジ(現ngiグループ)にCOOとして入社、2003年にライフバランスマネジメント社を設立。1956年生まれ。早稲田大学理工学部講師、中国・西北工業大学客員教授。著書に「会社のストレスに負けない本」(大和書房)など

ITの光と影を自身が体感

 今でこそ産業カウンセラーの肩書きを持つ渡部氏だが、元々の専門はマーケティングと営業だった。米国企業本社に勤務するなどした後、AOL日本法人の立ち上げに参加。後にシスコ・システムズでも中小企業向け市場の開拓に関わった。

 当時を渡部氏は次のように振り返る。
 「2000年頃はちょうどITバブルの絶頂期。僕自身も典型的な働き過ぎ、仕事中毒で、AOLやシスコにいた当時は夜の10時から『さあ、もう一仕事』(笑)という感じで働いていました」

 仕事が面白く、またネット業界を引っ張っているという自負もあった渡部氏。ITバブルが崩壊すると周囲では心身に不調をきたす人が続出し、渡部氏もギリギリまで追い込まれた。
 「ITの光と影の部分を見てきた」と語る同氏。ITは様々な便利さをもたらす反面、人間がついて来れないものになってしまったと指摘する。
 「先日のイージス艦の事故にも通じる事だと思いますが、ハイテクを駆使して最先端を走っていても、働く人や開発する人がついて来れないという現状を目の当たりにして、このままでいいのかと感じました」

 そんな折、大学時代の恩師でもある心理学者の加藤諦三・早稲田大学教授と話していく中で「社会の変革が激しい中、職場ではストレスが充満して心の病にかかる人が激増している。しかしそうした仕事現場と精神医学を取り持つ関係が極めて希薄ではないか」と気づく。
 当時、ネットエイジに在籍していた渡部氏は、これをビジネスとして成り立たせるべく、AOL時代からの同僚であり親友でもある西川潔氏らの協力を仰ぎ、03年にLBMを設立する。

渡部氏の著書「部下を『会社うつ』から守る本」(大和書房)は昨年5月に発売した

渡部氏の著書「部下を『会社うつ』から守る本」(大和書房)は昨年5月に発売した


鬱に罹りやすい3つの性格類型

 うつになりやすい性格類型は3つある、と渡部氏は指摘する。

 ひとつはいわゆる『いい人』。まじめにこつこつ努力して、大きな変化を嫌う。ところが現代社会は変化がいっそう激しくなっているため、環境に適応できずにうつになりやすい。

 次に『真面目な人』。完璧主義で、何でもロジックに考えて白黒つけないと気が済まないような人で、特にITエンジニアに多い。仕事中毒に陥りやすいのもこのタイプだ。
「うまく回っているうちは良いけれども、プログラムで大きなバグが見つかるなどの『ミスや失敗』をすることが許せない。それがうつの引き金になってしまう」(渡部氏)
 また、このタイプは仕事にのめり込んでしまうがために慢性的な過労や睡眠不足となり、脳が休まらない。これもうつを引き起こす大きな要因だという。

 そして3つ目が『わがままな人』で、最近増えているタイプだ。1975年以降生まれのネット・携帯世代に多いとされ、『自己愛型』とも呼ばれる。このタイプの特徴はネットを偏重し、家でも学校でも職場でも過保護に育てられたためか、いわゆる「頭でっかち」で社会経験に乏しい。そのため社会適応力が低いが、『いい人』と違ってうまくいかない理由を周りの責任にしてしまう。会社の人事担当者を困らせることも多い。

ストレス耐性を高めるには

 うつに罹らないためにはどうすればいいのだろうか。渡部氏はまずセルフチェックが必要と説く。
 「うつは睡眠障害を伴います。夜中に何度も目が醒める、早朝から覚醒しているが何もする気がしないので、朝刊や朝のテレビ番組にも目を向けない。食欲も湧かない。気分が落ち込む。疲労が抜けない。こういう状態が3週間続いたら、絶対に医者に行ったほうがいいですね」と話し、「その場合、受診先は心療内科かメンタルクリニックです。会社が契約しているカウンセラーがいれば相談してみてもいい。いずれにしても早めに診察を受けることが必要です」と続ける。

 自分のストレスの傾向を知り、心身の状態を把握するように努めていれば、症状の悪化を防げる可能性が高まる。大企業では既にメンタルケアの取り組みを行っているところも多いが、ITベンチャーの様な中小企業では、なかなかそこまで手が回らないのが実情だ。
 「残念ながら、自分の身は自分で守らないといけないのが現実です。大抵の経営者はストレス耐性が強いから、うつに苦しむ社員の立場までは分からない」と指摘する。

 では、個人としてどうすればストレス耐性を高め、うつのリスクを回避することが出来るのか。渡部氏はいくつかの方法を提示する。
 「物事の見方を変えるのも重要です。白黒をつけたがる人も多いのですが、そもそも今の世の中はつけられないことが多い。むしろグレーの部分を楽しむ位がちょうどいい。何かあった時の感情の起伏と、その原因と理由を毎日日記につけて感情の喜怒哀楽を点数につけてその変化を客観視してみるのも有効です。詳しくは検索エンジンで『メンタフダイアリー』で参照してみてください」という。

 そして、「やはり、IT業界に関わる人は特に意識して自然と親しむべきです。ゲームをしてもリフレッシュになどなりません。森の中や温泉に行って自然との一体感をもっと感じるといい。会社側もビルの中にこもっていないで(笑)、自然の中でレクリエーションや研修の機会を設けるなど、もっと経営者は教育や研修に工夫をすべきです」と力を込める。

 従業員が20人の会社なら、そのうち4人が既にうつ予備軍と言われるIT業界。会社と従業員の双方が本気になってうつ問題に取り組む時が来たようだ。

「MTOP」はウェブ上でストレスチェックを受けることが出来るほか、現状分析や予防対策メニューにより従業員の「心の健康管理」に貢献する。(http://www.lifebalance.co.jp/service/mtop.html)

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LBMの公式サイト。同社は会社におけるメンタルケアを支援するために企業や個人向けに様々なサービスを用意。MTOP(メンタルタフネス・オリエンテーション・プログラム)やメンタルヘルス・マネジメント検定、HIL(早期離職予防プログラム)などがある。(http://www.lifebalance.co.jp/)
MTOPは大企業で導入されているが個人でも購入が可能だ。http://www/mtop.jp へアクセスしてみよう。ストレスチェックと豊富なコンテンツが年間利用料の3600円で利用できる
( 斉藤円華 )


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