ファッションを中心としたインターネットショッピングサイトを運営する『スタートトゥデイ』が成長を続けている。ストリート系やセレクトショップなど、人気・有名アパレルブランド企業を数多く取り扱い、若者の購買意欲を喚起しているというのだ。上場年1年を経て株式市場からも高い評価も受けている――その理由はどこにあるのか?
前澤友作社長は「利益を出すだけの会社をやっていても意味がない」と話し、その先を見据える。
ロックバンドのドラマーから転身し、「世界中をカッコよく、世界中に笑顔を。」という企業理念を掲げる経営の真意を聞いた。

まえざわ・ゆうさく 1975年、千葉県生まれ。早稲田実業学校校卒業後、バンド活動の一環で渡米。同時に輸入レコード・CDの通販ビジネスを開始。3年後の98年、有限会社スタート・トゥデイを設立。2000年に同社を株式会社化。本格的にファッション通販ネット事業をスタートさせる。2004年に複数のオリジナルセレクトショップを統合し、「ZOZOTOWN」をオープン。2007年12月には東証マザーズに上場を果たす
ミュージシャンの道が今のビジネスへ繋がる
12月2日、東京・渋谷で開催された米国のロックバンド、ゴリラビスケッツの来日ライブ。同じ日、前座としてオリジナルメンバーによる「奇跡の復活」を果たしたのが、日本の伝説のバンド「SWITCH STYLE」。ドラムを打ち鳴らしたのは、スタートトゥデイの前澤社長だった。スタートトゥデイの社名は、ゴリラビスケッツのアルバムに由来する。そんな縁で共演の誘いがかかった。ライブ会場にはスタッフも多数詰めかけていた。

前澤氏の社長室にて。壁には、ゴリラビスケッツが来日時に書いたサインなどがある
「高校生のころから、反体制とか反戦とか、そんなことばかり考えていた」という前澤氏。早稲田実業の入学式にも学ランに真っ赤なスニーカーで出席し、同級生らを驚かせた。「普通にみんなと一緒というのがいやだった」。
みんなが平和ぼけしているような感じがずっとしていた。世の中がつまらなく見えていた。このまま、エスカレーターに乗って大学に行っていいのか。問題意識をぶつけられる場を求めて、大学には行かず、ミュージシャンの道に進んだ。
結果的にはこの選択が現在のビジネスにつながっていった。ミュージシャンだったとき、ライブ活動の一環で、会場の一隅でTシャツやCDを売っていた。「僕が仕入れた輸入CDも売ったところ、僕が好んだものは、ライブに来るお客さんにも響いて売れ行きがよかった。カタログを作って通信販売も始めたら、うまくいった。当時自分が着ていた洋服を仕入れて売ってみた」。
「2000年ころにインターネットが普及したのをきっかけに、カタログをやめてネット販売に絞り込んだ。その瞬間、印刷や配布のコストがなくなって、利益が出るようになった」。前澤社長は解説する。
「裏原」(東京都渋谷区の神宮前から千駄ヶ谷までの一帯。アパレルショップが軒を連ねる)で売れていた人気のブランドを当初から取り扱うことができたことが成功の要因だった。当時、インターネットのモール(商店街)を展開していた会社はほかにもあったが、「ブランドさんのことを理解できる人がネット業界にはいなかった。ショップの人たちは儲けるためだけに売っていない。(作り手や売り手の)真意やコンセプト、哲学を理解してあげて、ちゃんと表現してあげることが大事」。
服のデザインと配送、それ以外は全て内制で
賛同してくれるショップを開拓し、4年後の2004年までにはオンラインショップを17まで増やした。それぞれ個性のあるセレクトショップで、全部違うURLにしていた。束ねて、一つの売り場にするのでなく、街に見立てて、それぞれのショップのアイデンティティを活かしながら統合したのが、「ZOZOTOWN」だ。
業績拡大の背景にあるのは「社員たちが洋服を愛している」ことだ。同社では、関連業務の大半をなるべく自分たちでやろうとしている。結果として、どんな外注先よりも業務の効率の高さにもつながっている。「好きなことをやるとモチベーションが上がるじゃないですか。それですよ。さらに、周りを見渡せば、同じように洋服を好きな仲間がいる。助け合い、支え合い、声を掛け合って働く」。その状況が結果として利益成長につながっていくと前澤氏は強調する。
実際、2009年3月期の連結営業利益は前期比17.9%増の20億8000万円に達する見通し。今後の成長性に対する株式市場の期待を表す株価収益率(PER)は31倍(12月5日現在)で、同じくeコマースを主力事業とする楽天の18倍を大きく上回る。
しかし、前澤社長の視線の先にあるのは業績ではない。「会社の数字を伸ばすのは難しいとは思っていません。スタッフの人間的な成長や心の広さなどを同じように成長させるのが難しい。そのバランスが崩れた企業はいくら業績がよくてもおかしくなりますよ」。企業理念の実現に欠かせない「いい人をつくる」という経営理念。その遂行に前澤社長は腐心している。
“ヒト・コト・モノ”に特化した情報発信サイト「ZOZOPEOPLE」開始
「ここ数年はメディアサービスの充実を意識してきた」(前澤氏)。というように、「ZOZORESORT」(http://zozo.jp/)には、104万人(2008年9月末時点)の会員のほか、「ZOZO RESORT」を運営する220人の同社スタッフなどが集う。この「ZOZOPEOPLE」では、個人や企業の枠組みを超え、人が情報発信する場を提供することで、新たなつながりから生まれるコミュニケーションの活性化を目指す
利益だけを求めない新しい経営を模索
3~5年後をめどに全く新しい事業を始めることを考えている。「世界を変えるような事業です。『あいつこんなことやりやがった』って思われるくらいのことやりますよ」。
そのためにも今、社内でこんな会議を流行らせているという。「100年後どうなるかを予想する会議」。若い子たちが、「100年後は、私たちはこうしたいから、こうありたいから、だから今、こんなことしませんか」。子供たち、そして、その子供たちのことまで考えて、事業をしたい。
最近、顧客に手紙を出した。「企業とお客さまという関係を超えて」、「未来を照らす一筋の光」になりたいなどのメッセージを記した。返ってきた返事には、「予想以上に、『ただ買っているだけじゃないよ』という意見が多かった」。
資本主義のもろさや弊害が顕在化する今、利益だけを追い求めない新しい経営を模索している。
前澤友作氏を知る3つのキーワード
《チャイルドスポンサーシップ》
前澤氏はHGOを通じて、世界各国の恵まれない子供たちに資金援助している。「世界を平和にしたい、戦争をなくしたい」という思いを胸に、個人でもできることから始めている。「ただ、もっといいやり方もあるのではないか」と思案中
《オフィスは汚くしたい》
オフィスの内装は、街中のセレクトショップも手がけるようなデザイナーに設計してもらった。美しいオフィスだが、「早く汚くしたいです。きれいなままっていやじゃないですか。野球のグローブとかと同じで。ホワイトボードに書かないで、ここ(壁)に書いちゃえばいいじゃないですか。なにがカッコいいって、ぼくはそういうのがカッコいいと思うんです」
《サイト名称の由来》
イマジネーションの「想像」とクリエーションの「創造」の「像」と「造」をとって、「ZOZO」という名称を考えた。今までにない名前で、なおかつ、覚えやすい名前にしたかった。もともとは「スタートトゥデイタウン」にしようと思っていたのだけれど
(
文:麻田桂、写真:更科智子
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