財団法人インターネット協会(東京都港区)は2001(平成13)年7月、当時任意団体として活動していた「電子ネットワーク協議会」と「日本インターネット協会」が統合し発足した公益法人だ。現在の理事長はNEC代表取締役執行役員社長の矢野薫氏。理事には富士通、NTTコミュニケーションズ、朝日新聞など、日本経済の中核を担う各界の顔が揃う。法人賛助会員は今年1月現在126社にのぼり、こちらにもIT関連を中心に著名企業が並ぶ。「インターネット上に未来社会を築く」という理念のもと、公的な立場からセミナーを通じたインターネットの最新技術や最新動向に対する啓発活動を行っている。
今回は同協会の発足当時から参画している副理事長の高橋徹氏に、19年度の活動内容や来年度以降の展望などを聞いた。
財団法人インターネット協会 副理事長 高橋 徹

財団法人インターネット協会・副理事長 高橋 徹氏
昨年、同協会は企業にWeb2.0を普及させることと、次世代の企業情報システムの可能性を探ることを目的に「エンタープライズ2.0研究部会」を新たに立ち上げた。インターネットの新潮流に対する対応を加速させているが、高橋副理事長は「Web2.0という言葉は知っていても、まだまだ活用の域には達していません。活用することで企業活動において有効であるとは感じていても、その方策が分からないというのが実情のようです」と、さらなる普及啓発活動の必要性を指摘する。「現在研究部会を開いて議論を重ねており、セミナーを通じて市場を引っ張っていく予定です」
同協会では企業への普及啓発とともに、インターネットの健全な発展に向けた取り組みも進めている。その一つがインターネット上の違法・有害情報の通報受付窓口「インターネットホットラインセンター」の運営だ。「これは平成18年6月にスタートした政府からの受託事業ですが、現在世の中で大きな話題になっていますので、その役割、責任が大きくなっています。国会でも取り上げられ、副理事長の一人である国分が衆議院で意見を求められ、今後講演を含めて対応するという動きになっています」と高橋氏は語る。
スパムメール対策セミナーが活況
現在、世界を行き交う全電子メールのうち約70%がスパム化しているとも言われており、行政府も対応を加速している。同協会でも迷惑メール対策には特に力を注いできた。
「昨年、総務省から中間報告が出され、当協会にも意見を求められました。その結果を受けて平成20年には法改正が行われます。また、年数回は迷惑メール対策セミナーを行っています。やはり皆さんの関心が高いのか、昨年は4~500人の来場者がありました。今年は5月20日に行う予定です」
「IPv6」移行はビジネスチャンス
高橋副理事長は現在、同協会内に立ち上げられたIPv6ディプロイメント委員会の委員長を兼務している。「IPの割り当て規格である現在のIPv4が枯渇の危機にあり、新たにIPを割り当てられなくなると言う状況になりつつあります。そこで世界中が一斉に、IPv6に移行しなければならないという過渡期に差し掛かっているのです」と危機感をあらわにする。
一方で高橋氏は「IPv6への移行は単にIPアドレスが増えると言うだけでなく、新たなビジネスチャンスでもあります。例えばユビキタスネットワークを大きく発展させるためには、IPv6に移行することが有効であると世界的に認められている事実です」と述べ、続けて「インターネットガバナンス・フォーラム(IGF)という国連主催フォーラムの場でもIPv4の枯渇が報告されています。インターネットの生みの親であり、TCP/IPを開発したヴィント・サーフ博士の『皆が一斉にIPv6に移行すれば問題ない』との発言もありましたが、大事なのは個人も企業も、いかにしてコストを出来るだけ掛けずにIPv6に移行させられるのかということ。その道筋を示すことが肝心」と指摘する。

今年は地方自治体との共催セミナーも開く予定だ
IPv6移行の議論では「果たしてIPv4は本当に枯渇するのか」と疑問視する見方も出ている。
高橋氏によると「米国の大きな会社はIPの割り当てが多く、実際に使われていない多くのIPが眠っているという事実があるから、それをシェアしないのは不公平だというものです。米国企業の多くは既得権の保護を論拠に、簡単には返してくれないということが毎回問題になる」という。
「日本ではある大企業が割り当てられたIPの多くを返却しています。企業へのIP割り当てはA、B、Cの三つのクラスがあり、クラスAには1600万台のホストが割り当てられています。歴史的にインターネット初期段階から参加している米国企業にはクラスAが多く、子会社に配ってもまだ余剰IPが埋もれている。中国はこのような米国中心主義を批判しています。でもインターネットの構造上それを変えるわけにも行かず、それがインターネットガバナンス問題となっています」と解説する。
さらにインターネットガバナンス問題については、「ICANN(アイキャン)という組織があります。そこに日本から人材を送り、日本としての意見をアピールし、『インターネットは誰のものか』と言うことを明らかにする必要があると考えています」と語った。
多彩な活動を予定。犯罪防止にも力点
同協会の08年度の活動では、インターネット犯罪対策にも引き続き力を入れていく方針だ。「スパムメールやセキュリティ対策など、インターネット犯罪を防止し、警察庁とも協議しながらインターネット元来の特質を守って対処していきたい」と力を込める。
一方で「表現の自由」の問題にも言及し、「かつて米国で通信の品位を守ろうという動きがありましたが、最高裁で否決されました。『表現の自由を守る』ことが優先された結果です。ところが日本で同じような法律を作ろうと言う声がますます大きくなっています。表現の自由はとても重要な問題なのに、日本では軽視されていると言うことが問題ですね。そのあたりをもっと議論を重ねていきたいと考えています」と話す。
最後に高橋氏は、「インターネットが社会的インフラとなり、社会がネットをどう使っていくか、また、ネットをどう育てていくかトータルなポリシーが必要となる。そのナビゲーターとしてインターネット協会があります。もし時代に合わなければ、当協会も淘汰の波にさらされてしかるべきでしょう」と述べる。
協会の展望については「昨年、Web2.0という、新しく生まれ変わろうという流れを作り出したので、組織発展の方向に向かなければなりません」とし、「そのためには、多くの人たちに参加してほしいですね。皆さんのニーズは協会の動きの中で実現するものもあるはずです。問題解決の手段として、インターネット協会をぜひ利用していただきたい」と呼びかけている。
財団法人インターネット協会の歴史
▽1991(平成3)年3月:ネットワーク協議会(JNA)設立
▽1992(平成4)年10月:電子ネットワーク協議会(ENC)発足
▽1993(平成5)年12月:日本インターネット協会(IAJ)設立
▽1996(平成8)年3月:Javaカンファレンス(Java-Conf)設立
▽2000(平成12)年6月:ネットワーク協議会(JNA)とJavaカンファレンス(Java-Conf)が日本インターネット協会(IAJ)に移行し、合併。
▽2000(平成12)年10月:「新法人設立検討委員会」「事業検討WG」「事務局連絡会」で本格的に検討開始。
▽2001(平成13)年 3月:インターネット協会(IAjapan)設立
▽2001(平成13)年4月:日本インターネット協会(IAJ)と電子ネットワーク協議会(ENC)がインターネット協会(IAjapan)へ移行
▽2001(平成13)年7月:財団法人インターネット協会設立
黎明期から日本のインターネットと歩みを共に ~財団法人 インターネット協会~
■名 称:財団法人インターネット協会
(IAjapan:Internet Association Japan)
■設 立:平成13年(2001年)7月1日
■目 的:「インターネット上に未来社会を築く」
インターネットの発展を推進することにより、高度情報化社会の形成を図り、我が国の経済社会の発展と国民生活の向上に資することを目的とします。
■主務官庁:総務省、経済産業省
■活動内容:2001年まで日本インターネット協会(IAJ) と電子ネットワーク協議会(ENC)で行ってきた活動を引継ぎ、さらに充実した活動を行っています。
■主な活動:インターネット最新技術および最新動向に関する各種セミナー開催
・フィルタリングの普及啓発およびレイティングシ ステムの構築運用
・各種部会活動
・インターネットルール&マナー検定の実施
およびインターネット利用アドバイザーの育成
・インターネット関連技術の開発と実証
・インターネット関連技術の標準化推進
・インターネット動向調査
・インターネットホットライン連絡協議会の事務局 業務
・インターネット・ホットラインセンターの運営
・W3C、IETF、ISOC、ICANN、INHOPE、APIA、APNGなどの国際組織との協働および国際連携 など
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文:櫻井弘次 写真:藤村徹
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