【視点・論点】第5回 「変化」に適応するための食品企業におけるIT活用(2)

2008年06月10日(火)

[ 86 号]

「疑心」をほぐす情報共有ルールの原則転換

 前回考察したように、トレーサビリティの本質は「企業間・部署間の情報共有による相互信頼性の向上」にある。この目的の意義自体に疑問符をつける人は恐らくいないであろうが、次の疑問は「その意義をどこまで実現できるか」という点になるだろう。

 多くの食品企業は、ほかの業種と同様に、開発・マーケ/生産/営業の各部門間の連携はよいとはいえない場合が多い。特に安心・安全情報といった「明日の飯にならない」仕事に関しては、仮に「いいシステムを作ったから各部署で共有のための情報入力をするように」と号令されたところで、お互いが「自分の本来の仕事ではない」「ただでさえ日常業務が忙しいのに、そんな『よその部署のための余計な仕事』なんぞできるものか」「何かことがあったときに関連部署に問い合わせれば十分だ」と考え、早晩誰も使わなくなるであろうことは、容易に想定される事態である。この背景には「他の部署の連中に『余計な』情報を見せたら、勝手に解釈されてろくなことにならない。必要最低限の情報さえ見せておけばよい」とする隠ぺい意識もあるだろう。

 要は「必要だと思う情報を各部署が独自の判断で登録する」という情報共有のあり方自体に根本的な問題があり、「各部署で必要だと思う情報は(部外秘とすべき一部例外を除き)すべて共有し、相互リンクさせておいて各部署が必要に応じて引き出して使う」という具合に転換させればよい、というわけだ。一昔前なら回線速度や同時処理容量の問題でとても使い勝手が悪い仕組みしか出来なかったかもしれないが、今日のITを持ってすればこのような仕組みを構築する上での大きな障害はないであろう。

「開かれた」情報ネットワークによる「開かれた」ビジネスプロセス

 この仕組みを拡張すれば、原料や包材の仕入先、販売先との(当社製品に関する)情報共有システムに容易に拡張できる。無論「開いてよい」情報と「秘匿すべき」情報はより厳密に(おそらく品質保証部門が全社一律の基準で)峻別すべきではあるが、このような「開かれた情報ネットワーク」に基づいて事実認識を共通化し、そのスピードを早くすることで、安心・安全対策はもとよりその他のビジネスに関してもより深い信頼関係が構築できる容易なるであろう。ここで、受け手の立場(特に主要な受け手である広域流通企業の立場)から見て重要になるのはこのようなシステムを持つメーカーが「相応の取引規模を持ち、ある程度業界標準的なシステムで情報提供されること」であろうことは想像に難くない。その意味でも、また必要なデータおよび消費者対応まで含めた運用ノウハウの蓄積の観点でも、「安心・安全対策」をきっかけとする食品メーカーの情報管理体制の再構築は、出来るだけ早く、出来るだけ有力な得意先を巻き込む形で行うことが望ましい。そのことが、消費者の「安心」を確保する上で有効であることは勿論、来るべき業界大再編時に、企業として一定のポジションを確保することにもつながるであろうからだ。(了)
( 株式会社CDIソリューションズ 取締役 小川 克己 )


記事についてのご意見・ご感想

関連記事

東京IT新聞 特集ラインナップ

専用サーバ・専用レンタルサーバーは at+link におまかせ!

Apple Store(Japan)

東京IT新聞HOTキーワード
東京ITイベント情報

イベントカレンダーを見る カレンダーを見る