三州製菓株式会社(埼玉・春日部、斉之平伸一代表取締役社長)は、米菓の生産・販売で埼玉県のトップシェアを誇る。すでに20年前から他社に先がけてIT化に取り組み、1999年にはクライアント・サーバー型の販売・生産管理システムを導入した実績がある。「食の安全性」への関心の高まりを背景に、2005年に「安心・安全」を追求するための「生産・販売のトレーサビリティ」の導入を決意。ITコーディネータの町田行雄氏のアドバイスを受けながら推進していった。

さいのひら・しんいち氏 「食の安心・安全をおろそかにすると、会社の存亡にかかわる。IT化は顧客満足、顧客の信頼性獲得につながる」と語る。1948年東京生まれ、一橋大卒業後、松下電器入社。75年に父の経営する三州製菓入社。『脳力経営』(致知出版)、『ダブル手帖術』(東洋経済新報社)などの著書もある
社内に「IT委員会」 情報共有しながら推進
同社社長の斉之平伸一氏が先代から会社を引き継いだ20数年前、三州製菓は問屋経由で菓子を降ろす「流通菓子メーカー」だった。問屋が求めるのは廉価で日持ちのする菓子。しかし、同社が目指すのは“おいしい菓子、本物の菓子”だった。 同社は業態を転換し、専門店への菓子のOEM(相手先ブランドによる生産)やテーマパーク、自社直営店やフランチャイズ店に向けて販路の舵を切った。
顧客のニーズに応える菓子を開発する体制づくりや製造・流通・管理を徹底させるため、販売管理、生産管理、グループウェア、ナレッジマネジメントなど積極的にIT導入を進めてきた。総務や製造のメンバーからなる「IT委員会」も社内に設置し、情報の共有化を図った。
「2003年に牛肉の安全性の問題がクローズアップされ、その後、国内でも大手食品会社の不祥事が明らかになり、この問題をおろそかにすると会社の存亡にかかわると痛感しました。例え会社の規模は小さくても、食の安心・安全を標榜する企業であるからには、トレーサビリティの導入は最優先事項と決めて取り組まなければならないと思いました」(斉之平社長)

二次元ラベルと無線ハンディを用いて管理を行っているため、パート社員でも操作が容易。産地や生産情報だけでなく、日付管理もできるので出荷ミスもなくなったという
物品がどこから来て、どこを通り、どこへ行くか
トレーサビリティとは、物品の流通経路について生産から消費段階までの履歴追跡を可能にすること。同社ではそれまで手による入力に頼っていた。ところが、中小企業の食品向けのパッケージソフトが販売されておらず、ITコーディネータの町田氏をアドバイザーに、ベンダー(内田洋行)と一緒になって独自開発を進めることになった。
「どのような原材料がどこから来て、どのような製造工程を経てどこ(出荷先)へ出ていったか。そういうプロセスの中で安心・安全をどのように確立したらいいか。IT委員会の意見を仰いだり、先進企業の事例を見学に行くなどしてシステムの条件や内容を決めていきました」(町田氏)

ITコーディネータの町田氏
この種のコンサルティングは通常だと4~5回で終わるものだが、町田氏の場合は1年以上、18回にも及んだという。総予算は4000万円。開発されたシステムはパッケージ化され、商品として発売された。
トレーサビリティは、導入しないからと言って、直ちに経営を揺るがすものではない。法律で強制されているわけでもない。実際、導入されていない企業がほとんどだという。社員も一時的に仕事が面倒になり、人手も手間もお金もかかる。余分な投資だという意見もある。では、なぜ導入に踏み切ったのか。
「いずれやらなければならないことは、先手を打ってやる。そのことが、お客さまの信頼性の獲得につながると信じています。新しいものは、社員に負担もかかるかもしれません。しかし、手による入力をIT化することにより、パート社員も簡単に操作できる。ミスがなくなり、結果的に仕事が楽になり、それがやりがいにつながっていくはずだ。これが、私の経営に対する姿勢、考え方なのです」(斉之平社長)
町田氏も「年間、百数十人の中小企業の社長さんとお会いしていますが、斉之平社長のように経営戦略を明確に持っている経営者は少ない」と高く評価。現在は、2人で埼玉県内の企業を訪問したり、講演会などで同社の導入事例を紹介したりITの普及に力を入れている最中だ。
ITを仕事の道具として活用し、安心・安全の企業ブランド構築にも役立てる……。IT化を進めようとする企業に参考となる事例ではないだろうか。
今回の取材先
●三州製菓株式会社
住所:埼玉県春日部市豊野町2-8-3
設立:昭和25年7月
資本金:8600万円
代表取締役:斉之平伸一
事業内容:菓子専門店向けの高級米菓、高級洋菓子、健康食品の生産
従業員数:225名
(
文:古俣愼吾、写真:更科智子
)
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『 中小向けのトレーサビリティをITCやベンダと共に独自開発 【IT導入の現場 第6回 三州製菓株式会社】 』に対する
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