東京都板橋区は、大田区と並ぶ都内有数の精密機械工業の集積地。板橋区がITを活用した中小企業連携の勉強会を主催したことがきっかけになり2000年3月に区内22の町工場が集まって「ものづくりネット板橋(以下MNI)」という共同受注グループを結成した。「IT環境ゼロ」からスタートして今日に至るまでの活動を、同会のコーディネート役として参加しているITコーディネータの八木田鶴子(やぎ・たづこ)氏と、同会の紀孝(きの・たかし)会長に聞いた。

「経営環境は厳しさを増すばかり。でも、われわれは腕に自信がある。みんなで力を合わせ、新しい発想法で未来につなげていきたい」(紀孝会長)
「IT環境ゼロ」の状態からスタート
独自の技術力を持つ中小企業が、IT活用で協力して共同受注体制を作ろうというのがMNIの目的だった。しかし、仕事で使う高度な工作機械は導入していても、基幹業務や情報交換手段にITの活用はなく、せいぜいFAXで情報をやりとりする程度。パソコンは苦手という人が圧倒的に多かったという。
「パソコンを使っている会社は6社、メールにいたっては3社というありさま。とりあえずパソコンくらい買おうね、せめてメールでやりとりできるようになろうね、ということでスタートしたんです」(八木氏)
まずパソコンに慣れようと、PCに詳しい2人の会員をキーマンとして「パソコン教室」を実施。必要とあれば会員企業のところまで足を運んでサポートした。活動は国の「コーディネート活動支援事業」の支援で3年間続き、ほとんどがパソコン操作ができるようになり、メールで連絡がとれるようになった。
レンズ、顕微鏡関連の機械製作の有限会社桜精機の平野義行社長も、熱心に勉強会に参加した一人だ。
「ゼロから始めてホームページが作れるまでになりました。仕事関連と趣味の情報を載せています。設計図も手書きでしたが、板橋区のCADの講習会に参加して『JW-CAD』を使いこなせるようになりました。会計ソフトも導入して申告もパソコンでやっています」(平野社長)と言うほど実力をつけた。

ITコーディネータの八木氏(左)と「ものネット販売」の平野社長
2001年の後半には、ホームページとFAXを組み合わせた共同受注のシステムを構築した。会員企業には旋盤、ボール盤、フライス盤、ベンチレースなど、機械や技術、特許、営業品目などで共通のものを持っているところが多い。ホームページを見た依頼企業からFAXで図面などが受信されると、自動的にホームページにアップされ、同時にメーリングリストで会員に通知される。会員はホームページで図面を確認し、希望者が複数いれば話し合いで決めるという仕組みだ。(現在は、インターファックスとメーリングリストを利用)

板橋区の中小製造業が得意技術をもって結束した「ものつくりネット」 (http://www.mono-net.gr.jp/)
2002年3月には、「せっかく作ったホームページが会員の企業紹介だけではもったいない」と、新規客の開拓をねらってホームページ上に製品を展示していく「バーチャル展示会」を開催した。スライス加工や旋盤加工といった「加工別」、工学部品屋機械部品といった「部品別」に会員がどんな得意技術をもっているかをデジタル画像で紹介。2週間で5000件ものアクセスがあり、新規客の獲得や受注に結びついたという。
モノ作りは得意、売るのは苦手……で販売会社
メールによる日々の意見交換、定期的なミーティングや勉強会などで結束を固め、最近は新製品の共同開発も手がけるようになり、2008年2月にはその製品を販売する株式会社ものネット販売(平野義行代表取締役)を設立するまでになった。紫外線の強さを調べられる「UVチェックカード」や世界初の「虹発生装置」(自宅や店舗、イベントなどで虹を発生)などユニークな製品を送り出している。

「ものネット販売」 (http://www.e-micc.com/)
「会員のみなさんは、作ることは得意ですが売るのが苦手。販売会社を作ることでまた一歩前進できました。これからもプラス思考で活動の領域を広げていってほしい」(八木氏)
同会会長で紀塗装工業所社長の紀孝氏も、これからの取り組みについて「1社では無理でも、仲間で知恵を出し合えば大きなビジネスも勝ち取れる。今後も、MNIを基盤に力を合わせていきたい」と熱く語ってくれた。
今回の取材先
ものづくりネット板橋
住所:東京都板橋区熊野町45-5-905(事務所)
設立:平成12年4月1日
資本金:合計1億円
代表取締役:(会長) 紀孝
事業内容:板橋区内の小規模製造業者の連携による共同受注体制づくり
会員社数:9社(ほか個人5名)
(
文:古俣愼吾、写真:更科智子
)
記事についてのご意見・ご感想
『 町工場がIT利活用、共同受注を目指す 【IT導入の現場 第5回 ものづくりネット板橋】 』に対する
関連記事








ページの先頭へ
