株式会社セールスフォース・ドットコム代表取締役社長 宇陀栄次氏に聞く、セールスフォース、日本での次の一手は? 「SaaS」より「PaaS」強く打ち出す

2008年08月19日(火)

[ 95 号]

 インターネット技術活用の巧拙が企業業績を左右する時代を迎えた。これまでネット販売などBtoCを中心に伸びてきたネット活用が、企業の神経網としてスピーディーで的確な意思決定を促し、膨張を続ける情報を確実に処理する。その代表が「SaaS」だ。この分野で世界のトップを走る米・セールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフ会長兼CEOは「ソフトウエアは買うものから、借りるものに変わった」と先月東京・目黒で開催されたカンファレンスでも語った。BtoB分野で日本でも“台風の目”になり始めたセールスフォース・ドットコム。日本市場における今後の戦略を宇陀栄次社長に聞いた。

うだ・えいじ 1956年生まれ、慶應大法学部卒。1981年に日本IBM入社。2001年からソフトバンク・コマース株式会社代表取締役社長。2004年にセールス・フォースドットコムに参加。現在、米国セールスフォース・ドットコムSenior Vice President(上席副社長)を兼務

うだ・えいじ 1956年生まれ、慶應大法学部卒。1981年に日本IBM入社。2001年からソフトバンク・コマース株式会社代表取締役社長。2004年にセールス・フォースドットコムに参加。現在、米国セールスフォース・ドットコムSenior Vice President(上席副社長)を兼務


先日のカンファレンスは大変な盛況でした。SIerとともに企業内ユーザーの関心の高さを示していると思いましたが、日本法人の業績はどんな状況でしょうか?

宇陀
 米国本社がNYSEに上場しているため、業績について詳しいコメントはできませんが、ワールドワイドの売上のおよそ5~10%が日本での売上です。

セールスフォース・ドットコムに参加されたときの意気込みを聞かせてください。

宇陀
 私は日本アイ・ビー・エム時代から、ポスト・ブロードバンドのサービスを手がけたいと思っていました。ずっと法人相手の仕事でしたから、ソフトバンクに移ってもWebサービス技術を日本で一番早く取り入れ、NTTコムウェアと一緒に販売したりしていましたが、ソフトバンクがITから通信、それもコンシューマーの世界に入っていったので、「自分の価値を出せないな」というのが当時の考えでした。セールスフォース・ドットコムはBtoBの企業だとは知らずにコンタクトしましたが、話を聞いているうちに興味がわいてきました。私が参加したとき日本では30人ほどの規模でした。

 よく「あんな小さいときに入るとは先見の明があった」などと言われますが、規模は気にしませんでしたね。IBMでもソフトバンクでも部下は1000人以上いましたから。それよりも、ファウンダーであるベニオフに合った時、「サービス自身が優れている」と、そして「CEOが製品を知っていて愛している」と感じました。これは重要ですね。コンシューマー向けで発展した技術を法人のアプリケーションとしてキチンと固めていると思いました。

▼事業計画は「100ページのうち、まだ2~3ページ程度」

それはCRMのことでしょうか?

宇陀
 ITの世界ではCRMの他にはSAPが話題になっていました。ベニオフCEOと会ったのは2004年の初頭ですが、米国ではかなり注目されていましたね。

日本では郵政公社が御社のサービスを導入したほか、大手企業への導入が進んでいますが、日本での事業計画はどのようなものですか?

宇陀
 これも余り詳しくは語れないのですが、イメージで言うと、100ページの本のうちまだ、2~3ページ読み終わった程度でしょう。例えばグーグルですよ。あの検索エンジンを知らない人はいない。でも、皆さんユーザーですか?

ええ。グーグルは毎日使っていますが……

宇陀
 でも、お金を払わない人はユーザーとは呼ばないですよ(笑)。皆がグーグルにお金を払って使うことになったら大変なことになります。BtoCとBtoBには違いがあり、我々が携わっているBtoBにはそうした可能性があります。ヤフーはオークションで安定収入がありますが、ベースがあり毎月毎月、収入が見込めるのは大変なことです。それを考えたら、当社の今の売上はまったく小さい。

 しかし、グーグル5億人のユーザー1人から1円でもいただくビジネスは難しいが、法人から使用料をいただくビジネスはあり得ます。グーグルが米国で当社となぜ提携したのか? 圧倒的な売上を誇っているのに、ビジネス分野に入ろうとしたら難しい。法人向けアプリケーションの世界に入っていくのに「さまざまなことを学びたい」という考えが彼らのベースにある。私にはBtoCは難しいがビジネス向けはすぐアイデアがわきます。DNAが異なるのです。

グーグルはなぜ、米国で当社と提携したのか。考えてみて下さい

グーグルはなぜ、米国で当社と提携したのか。考えてみて下さい


▼来月2日にベニオフCEOが来日、フェア開催

日本での事業計画で何か具体的なプランはありますか?

宇陀
 9月2日にベニオフCEOが来日してフェアを開き、そこで新しい製品・サービスを発表します。また中期的には日本にローカル・データセンターを設置することで、概ね本社の了解を得ています。時期ですが、周辺の技術や人員計画などを含めて細部を決める必要があり、新しい事業を支える需要が日本にあるのか、あるいは中国の方が合理性があるのか、未定です。

人員体制ですが、現在は?
 
宇陀
 150名ほどです。

新卒の採用は?

宇陀
 過去に行ったことがありますが、定期的にはまだ行っていません。人員は今後、増やす必要があることは分かっています。もう一段、ドンと構えるようになったら新卒採用をコンスタントに行いたい。

前回のフォーラムでベニオフ氏はSaaSではなく「PaaS」(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)という言葉を使っていましたが、これはどういう考え方ですか?

宇陀
 当社はもともとCRMのシングルアプリケーションのサービス・プロバイダーでした。ご存知のようにSaaSはこうしたアプリケーションをネットを通じて必要なときにユーザーに提供するサービスです。ところがユーザーからの要望がどんどん増え、CRMだけでなく多くのアプリケーションを提供するようになりました。また、ソフトの純粋なユーザーだけでなく、SIerや企業内のIT部門からの要望も多くなりました。

 これに対応するためには単なるハード、ソフトだけでなく、データベースやインテグレーション用などのコンポーネントが必要となります。つまり、アプリケーションを強化するために、24時間、365日安定稼働するプラットフォームも強化していった。「CRMより、この機能を求めていた」というお客さんも少なくありません。大企業のIT部門ではユーザー部門からさまざまな要求が寄せられており、それに応えるためには新しいプラットフォームが必要となっていたわけです。これまでのIT技術はサーバーなどのハードウエアとOSへの依存性が強すぎました。

つまり「PaaS」とはアプリケーションだけでなく、開発環境までもネット経由で提供するという考え方ですか。

宇陀
 これから日本ではむしろSaaSより「PaaS」を強く打ち出していきます。郵政公社の事例が話題になっていますが、CRMは購入されていません。プラットフォームを購入された。SaaSについてもまだまだ疑問を抱いている人もいますが、実際には「結構、これでもいいのでは」という企業担当者が増えている段階に来ています。

▼日本の優れた技術と「PaaS」を合体させる

それにより、日本のIT事情はどのように変わりますか?

宇陀
 日本の小さなベンチャー企業が、欧米のユーザに広く使われるようなサービスを開発・提供できる可能性が出てきます。クオリティーの管理はもとより、メンテナンス、ビジネス拠点、異言語対応などすべて一カ所でできるようになります。私も日本人ですから日本から世界に発信する企業になりたい。日本のデベロッパーを世界的なステージに押し上げる力、その可能性を「PaaS」は秘めていると思います。

 もうひとつ。最近感じるのはお客さんから「お宅のシステムは面白いね」と言われることです。「便利だ」とか、「簡単そうだ」ではなく。これは何百回も聞いていますが、「おもしろい」というのは、英語で言うとAmazing。「おおっ」という感じで、そこに“ものづくり感”がある。新しいものは全くゼロからポンと生まれるものと、組み合わせで生まれるものがあります。IT産業の経営者の方の中には「最近、景気が悪い」と言っている人もいますが、その前に「本当にお客さんが使いたくなるようなものを妥当な魅力的な価格で提供しているのか」と問いたい。

 自動車産業と比較すると日本のIT技術はまだまだだ。一昔前の技術が縮小するのは当然で、これから大きく変わる。ただ、圧倒的多数の中小企業と地方自治体、これは日本の基盤ですが、彼らは大きなリスクは取れません。我々はこれから銀行の勘定系のシステムを担当しようとは思いません。当社は圧倒的多数の日本の基盤に向けて、多くのITベンダーが独自のサービス、アイデア、固有の技術を当社のサービスの上に乗せていただき、きめ細かくサービスを提供していくことを望んでいます。

 精密機器をはじめ日本が世界に誇る固有の技術はたくさんあります。これと「PaaS」が合体することで新しい提案が生まれます。私はこれを進めたい。

▼「Force.com」サービスとしてのプラットフォーム

 セールス・フォースドットコムが2007年に発表した「Force.com」は、同社によると企業アプリケーションを対象にして開発した世界初の「サービスとしてのプラットフォーム」であり、ツールとアプリケーションサービスが統合され提供されている。

企業アプリケーション向けPaaS「Force.com」 http://www.salesforce.com/jp/platform/

企業アプリケーション向けPaaS「Force.com」 http://www.salesforce.com/jp/platform/


 独立系SI企業や企業内IT部門では「Force.com」を活用してさまざまなビジネス・アプリケーションを開発し、セールス・フォースドットコムと同じインフラ上で運用することが可能となる。同社によるとすでに6万以上のビジネスアプリケーションが「Force.com」で開発された。

 「Force.com」はブラウザとインターネット環境さえあれば利用でき、これまでのようにハードウエアやソフトウエアの購入、インストール、設定、管理などの手間が不要となる。ユーザーは、使用しただけの料金を支払う料金体系を採用している。

 「Force.com」の特長は、SAP、オラクル、グーグル・マップなどの汎用的なWeb2.0サービスとの連携が図られている点だ。オンデマンドプログラミング言語の「Apex」、GUI構築のための「Visual.Force」も発表されている。
( 文:丸山隆平、写真:岡部ユミ子 )

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