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筑波大発のロボットスーツ「HAL」 日本飛び越え欧州の医療現場へ

サイバーダイン株式会社(茨城県つくば市)の医療用ロボットスーツ「HAL(ハル)」が、欧州における医療機器としての認証を取得した。世界トップクラスの第三者認証機関であるティフラインランド(本社:ドイツ・ケルン市、日本支社:横浜市)が適合性を認めたもので、ロボット治療機器としては世界で初めてのこととなる。

筑波大・山海嘉之教授が91年から研究始動

筑波大の山海教授

 サイボーグ型ロボットスーツ「HAL」は、装着者の皮膚表面に貼られたセンサを通して人体の生体電位信号を読み取り、立ち上がる、座る、歩く、階段の昇降といった日常動作をサポートしてくれる。

 サイバニクス(※)技術の第一人者である筑波大学大学院の山海嘉之教授が1991年に基礎研究を開始。2004年にはさらなる研究開発のため、同氏をCEOとする筑波大学初のベンチャー企業・サイバーダインが設立された。

 昨年12月には医療機器に関する品質マネジメントシステムの規格であるISO13485認証を取得。このたび、EUで販売される指定の製品に貼付を義務付けられている基準適合マークであるECマークも取得した。

 これによってHAL医療用は、ロボット治療機器としては世界で初めてEUにおける流通、販売が可能となった。

(※サイバニクス:脳科学や神経科学、行動科学、ロボット工学、心理学、IT、生理学などの知識を融合した新研究領域。山海教授が確立し命名した)

日本では医療用と福祉用を区別して規制

 国内では、HAL福祉用のレンタルが10年より既に進められており、全国160ほどの施設で約400台が神経系患者の歩行トレーニングなどに利用されている。

 だが日本の場合、医療の現場で使われる医療機器と、老人ホームなどの福祉施設で使われる機器を明確に区別する規定がある。

 いかに福祉の現場で活用されていても、医療機器としての認可がなければ、医療の現場で流通させることはできない。そのため、サイバーダインでは年初から、国内でのHAL医療用の認可を得るため、新潟大学をはじめとする3カ所と協力して治験を始めたところだ。

 一方、EUでは福祉用や医療用といった区別なく、医療機器としての認可を得る必要がある。

 ティフラインランドの認証を得たことで、今回はHAL医療用の国内を飛び越えての海外展開が実現したことになる。

海外メディア含む40以上のマスコミが注目 

「HAL」の仕組み(サイバーダインWebサイトより)

 今月5日にサイバーダイン本社で行われた認証書授与式には、海外メディアを含む40以上のマスメディアが詰めかけた。

 山海教授は「日本ではまだ未承認だが、EUで医療機器として出荷できる段階にきたことは、非常に大きな一歩。これでやっとロボットスーツHALが世界のマーケットの中で動き始める」と、ECマーク取得までの試行錯誤を思い出し、感慨深い様子で話した。

 認証機関のティフからは、クリスチャン・ワイリンガーCTOがスピーチを行い、「技術が環境や人に有益か、第三者として十分評価する」と自社のコミットメントを述べたうえで、「認証には依頼を受けてから通常は1~2年かかかるが、今回は半年かからずスムーズに終えることができた」と認証実現に向けた行動力をねぎらった。

高齢化社会へ対応するための出口として期待

 HAL医療用の重量は14キロあるものの、人が"乗り込む"仕組みになっているので、装着者が重さを感じることはないという。

 筑波大学の三明康郎副学長が「高齢化社会へ対応するための出口を見据えた研究開発そのもの」と述べるように、独居老人なども問題視される現代では、高齢者の身体的負担軽減を叶えるHALは未来への希望だ。

 また、同じく祝辞で登場した独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)技術開発推進部長の久保田正次氏は「2年前の東日本大震災のときも、日本のパーソナルロボットはどうなってるんだと海外で散々言われてきた。HALは日本の技術の粋を世の中に示す立派なもの」といい、次のステップとして「流通させるには、労災保険や一般の法的保険など、各国の保険の適応を受けることが重要」との課題を述べた。

 NEDOは、サイバーダインが独ノルトライン・ヴェストファーレン州の病院と協動し、保険適応を目指した実証事業の支援を決定している。

ライバルはなし 唯一無二のHALの技術

 同様の機器を作るライバルメーカーについては、「HALで用いられている原理を使わないと、脳神経系の回復ループ構成がしづらい。類似のカタチをしたものが一時あらわれたが、いずれも治療に使うまでには至らない」(山海CEO)と、HALの技術が唯一無二であることを強調した。 

 HALは現在、医療・介護福祉等の施設向けにレンタル、リースを行なっている。レンタル費用は両脚で1カ月15~16万程度。EU内で先駆けて展開するドイツでは、ひとまわり高い価格での流通が検討されている。 

 10年前まではSF映画やマンガの中の存在でしかなかったロボットスーツが、現実味をもって社会の中に入ってきた。さらに10年後には車や自転車と同じように、HALに"乗った"人々が街を歩く姿が見られるかもしれない。

ライター

2012年から東京IT新聞のインタビューコーナー「IT×新ビジネス創造人」を中心に携わる。もともと文学とアートを学んだ文化系だが、起業家やベンチャー企業、VC等の取材をおこなうなかで、世界を変えるITと人の魅力に感服。犬好き。